気候正常化のための「森林地域主義」を

 

  私たちヒトが文化・文明を作り、その時代を謳歌しているのが現代だとすると、地球温暖化をしていないこれまでの時代の気候こそがヒトにとって正常な気候だ。その正常な気候を温暖化させているのが現在の気候変動の問題だ。これまで地球にはすべてが氷に覆われた時代もあったし、深刻な高温に苛まれたこともある。ヒトが誕生してからではないが、地球にはさまざまな時代があった。「原始大気」と呼ばれる誕生したばかりの地球には酸素はなく、二酸化炭素にほぼすべての大気は覆われていた。その大気に五分の一ほどの酸素が含まれるようになり、さらにオゾン層まで形成して植物や生物が上陸できるようになったのは、わずか五億年前からのことだった。四六億年の地球の歴史から見れば、ごく最近のことだ。それまで生物は海から出ることができなくて、海中の生物だった。    

 最初に上陸したのは植物だった。しかしまだ腐葉土のような豊かな養分もなく、水分さえ流れ去ってしまうため、単独では上陸すらできなかった。その時、共に上陸したのが微生物だった。「菌根菌」と呼ばれるその微生物は、今でも植物の根と共生していて根から炭素や養分をもらう代わりに、リン酸や水分を根に届けている。これが今も続いていて、植物と共生している。その「菌根菌」の八割を占めるのが「アーバスキュラー菌」だ。それなしにはスギもヒノキも育つことが難しい。  

 その「菌根菌と植物のセット」は大気さえも変えてしまった、太古の海に光合成する「シアノバクテリア」は生まれたが、サンゴ礁のような岩礁と共に、浅瀬で酸素を生み出していた。しかし海中のため、死滅すると再び酸素を吸って分解されていき、大気をこれほど激変させるには至らなかった。激変させたのは植物などが上陸することで、枯れた遺物も土壌に蓄積されるようになってからだ。今も二酸化炭素の炭素を蓄積しているのは樹木のように思えるが、実際には土壌の方がその六倍も蓄積している。私たちの暮らす文化・文明の母は、「土壌と微生物」なのだ。    

 それらとうまく共生して暮らすことができなければ、ヒトは生存し続けることは不可能だ。私たちヒトはその中で暮らす生物なのだから、植物と微生物をうまく活用しながら暮らす以外にない。

   

 つい先日、宮城県の友人たちが進めている「ベスタ・プロジェクト」のお披露目会があった。場所は宮城県鳴子温泉郷だ。そこでは森の森林資源をほぼ百パーセント使う。大きな柱から根太などの建築用材、次に家具・家財用に、その他は薪や木質ペレットに利用し、さらに今回の仕組みで枝や葉まで燃料にして使う。熱電併給のプラント(CHPという)で地元のエネルギー公社に電気を売り、さらにお湯を作って「エコアパート」の冷暖房や温水、さらには木材の乾燥の熱源にまで使う。そのエコアパートは通常の建物の三倍もの木材を使った「板倉造り」で建てられ、森から得た資源は余すところなく使う努力をしている。

板倉造りのエコアパート

   

森の手入れの仕方も万全だ。山を壊してしまう重い林業機械は使わず、手間のかかる森の下草刈りにはウシを飼い、フォワーダー(小さな木材の運搬機)まで木を運ぶのにはウマを使う。もちろん軽い機械やトラックは使うが、その燃料には廃食用油から作ったバイオ燃料をなるべく使う(寒冷地なので使えない時期もある)などの念の入れようだ。

 せっかく得られた森林資源はとことん大事に使う。それを可能にするために枝や葉まで燃やせるCHPをドイツから入れた。そして可能な限りの「地産地消」を実現しているのだ。その装置は熱を作り出すのに、木材をガス化して利用する。ガス化することで燃焼効率を上げ、メンテナンスを楽にしている。  

CHP本体

 

しかしぼくにとって魅力的なのはその後の産物だ。木材をガス化した後には「炭」ができる。「炭」は炭素の塊で、重さベースで二酸化炭素の四倍の密度になる。これを森に戻すことで土壌を豊かにしたいのだ。

CHPの炭の様子

 

 

  「菌根菌」と「炭」は相性の良く、菌の生育の拠点に適している。しかもこれが地球温暖化を防止する炭素の貯蔵になる。つまり二酸化炭素を排出するどころか、その貯蔵になるのだ。それはもともとの地球の炭素を減らして大気に酸素を届け、大気中の炭素を減らした仕組みと同じものだ。    

 もちろん石油などの化石燃料を使わずに、二酸化炭素の排出を減らしていくことが最大に重要だ。しかし産業界に遠慮して、対策を十分しない政府の現実は問題のままだ。地球の温暖化の進行は、今なお目を覆いたくなる状態だ。それなのに対策の遅さはどうだろう。 

 

 しかしそんな時に、この解決策はどうだろうか。日本の国土には非常に多くの森林がある。成長も早い。そこでその地域資源を活用して、建物や家具を作り、エネルギーを作り、さらにその炭を森の土に貯蔵することで炭素分を土壌に蓄積するのだ。それなら日本中の地方の地域でできる。    

 「木材」と呼ぶと、木を産業的に利用するだけのようでうれしくない。そうではなく「森林資源」を各地域で活用するのだ。

   

 その方法は現実に宮城県の鳴子温泉郷の「ベスタ・プロジェクト」が実現した。それを見てもらえばやり方はわかると思う。そこでは枝や葉のチップ化も、乾燥方法も見ることができる。これが日本の各地で実践できるようになると、二酸化炭素排出量が蓄積量と同じにすることが可能になる。それができると石油などのエネルギー資源を輸入する必要がなくなる。エネルギーの資源輸入こそが日本の弱点だったのだから、日本という国家の基盤まで盤石にすることができる。  

 

 それを小さな地域から解決することが可能になったのだ。もちろん簡単ではないし、今回の実験には補助金も受けていない。それでもこれまで積み重ねてきた創意工夫の延長線上にこれができた。     もちろん森林の役割はそれだけではない。気持ちを落ち着かせ思索を深くし、災害を防止し水を貯留する。もう一度森林と共に生きる暮らしを創ろう。