一万年眠っていたフロンティアへ

先日、子どもの小学校から授業を頼まれた。「SDGsとは何か」という内容の授業だ。

私に頼んでくれることに少しでも役立てれば嬉しい。そこでSDGsについて考えた。

あなたがもし今の途上国にいて、地面にはたくさんの地雷が埋まったままで、耕したくても地雷がある限り危険すぎるとしたらどうするか。

いくら“地球環境が悪化としている”と言われても、それ以前に食べることすら困難では、明日まで生き延びることすらできない。“化石燃料の使いすぎだ”と言われても、途上国の側はほとんど使ってなくて、使っているのは先進国の側だ。その彼らに「使うな」というのは横暴ではないか。だから地球温暖化の被害が襲ってきても「SDGsを進めれば良い」とは言えない。少なくとも途上国に暮らす人々は、人権の頭数にも入っていないと感じるからだ。

そこで「SDGs」は誰一人残さないようにと、とてもたくさんの約束事を並べた。その約束事は、いわば「誰一人残すことなく助ける」ことだった。

だから言葉を変えて言うならば、「SDGs」は「今はそれどころじゃないんだ」と言わせないための、できる限り実現しようと思うたくさんの約束事だ。

地球史

地球環境問題を考える時に、地球史を読み解くと面白い。原始地球では、大気のほとんどを二酸化炭素が占めていた。その二酸化炭素を減らして酸素を生み出したのは、27億年前に生まれた光合成する微生物「シアノバクテリア」だった。

 

浅い海の中でサンゴ礁のような「ストロマトライト」が光合成を行い、炭素と水と光を使って光合成を行った。炭水化物を作り出すと同時に、二酸化炭素を分解して酸素を生み出した。

ストロマトライト( stromatolite)は、藍藻(シアノバクテリア)類の死骸と泥粒などによって作られる層状の構造をもつ岩石のことである。特に、内部の断面が層状になっているものを指す。

Wikipediaより
ストロマトライト

しかし海中ではせっかく捉えた炭素も滅びると海中に溶け出してしまい、大気中に酸素を爆発的には増やせなかった。しかしそれでも海中に広がった酸素は、海中の鉄分や有害物質を酸化させて沈殿させ、大気中の酸素もわずかずつだが増やした。

それはやがて上空にオゾン層を作らせた。そのオゾン層が有害な紫外線を妨げ、生物の上陸を準備した。しかし爆発的に大気中の二酸化炭素を減らし、大気に酸素を増やしたのは、植物が上陸した約五億年前からだ。捉えた炭素を陸地に閉じ込め、それが土壌を作り始めた。土中に蓄えられた炭素は土壌を豊かにし、さらに次に上陸する生命のための環境を整えた。

その後に上陸した植物の残滓は「石炭紀」と呼ばれる化石燃料の元になった。しかしそれもまた次に新たなに生まれた「白色腐朽菌」と呼ばれる菌類によって分解されるようになった。彼らは木材に含まれる難分解性の「リグニン」すら分解したおかげで「石炭紀」と呼ばれる時代は突然終わりを迎え、「ペルム紀」に移行した。

こうして概観するとわかるように、地球の環境は生物と物質が織りなす果てしない物語だ。そこに生まれた生物が大気を作り、有害物質を海底に蓄積させ、生物の上陸を準備した。またある菌類は突然に「石炭紀」を終わらせ、次の時代を準備した。

おそらく人間もその果てしない物語の一片なのだろう。今の時代は海洋に沈殿した物質から、「プラスチック紀」と呼ばれるのではないか。そしてそれは新たな分解菌を呼び覚まし、新たな時代を作り出すかもしれない。

奇跡の土「テラプレタ」

その人間が生み出した技術に面白いものがある。「テラプレタ(黒い土)」と呼ばれるアマゾンの荒れた土壌だ。それは栄養の乏しい土壌に「炭」を混ぜ込んだ黒い土壌だ。開拓移民として送られていた日系人たちはインディオから教わってそれを知っていた。何度作物を収穫しても「連作障害」を起こさない奇跡の土として知っていたのだ。

左側が黒い土「テラプレタ」

しかし西洋に知られたのはごく最近だ。もともとインディオの人たちを下に見ていることに加えて、偶然の産物と考えられていたためだ。もともとアマゾン地域には一万年も前からテラプレタの土地が作られていた。それが人為的に作られたものと認められたのは、21世紀に入ってからだ。

面白いことにテラプレタの土は、他の場所に移植されてからも土壌を豊かにいる効果を失わなかった。それは主に炭の効果で、多孔質の土壌にして微生物に繁殖する住処を与えた。土にはたくさんの生命がいる。たった一グラムに一兆もの生命がひしめいているのだ。人間は今なお土の生命体の1%も知らないのだ。

それを調べている独立行政法人「農業・食品産業技術総合研究機構・中央農業総合研究センター」の横山和成氏の調査によれば、土壌の豊かさと土壌微生物の多さと多様性は相関性を示している。ごく簡単に言えば、土壌微生物が多様で数が多いほど病害に強く、作物も豊かに育つのだ。

参考動画 3.”土の中の銀河” 微生物多様性が支える地球生命圏|横山和成

その事実とテラプレタの事実は符合するのではないか。今や人々は「テラプレタ」を使えるものとして知り、「バイオチャー(バイオチャコール=生物由来の炭)」として応用を始めている。それが今、世界中で広がり続けている。そのバイオチャーをどれほど土壌に含ませることができるのかはまだ不明だ。しかしアマゾンでは土壌に数%含ませても作物の生育にはプラスだ。

パリ議定書の際にフランスが打ち出した「4パーミルイニシアチブ」は、地球上の農耕地に今より4パーミル(0.4%)だけ多く炭素を含ませるだけで、温暖化を起こす二酸化炭素排出量を大気から奪って土壌に貯蔵できるというアイデアだった。それよりはるかに多い量を土壌中に含ませることすら可能なのだ。すると「4パーミルイニシアチブ」を大きく実現できるかもしれない。

つまりそこにも地球温暖化を防止できる可能性がある。一万年も眠り続けてきた過去の技術の再生だ。実際、私たちは実際に宮城県の山林で、山を手入れすると同時にバイオマス利用している。そこで木は不完全燃焼させることで可燃性のガスにし、発電と熱供給に用いている。それだけでなく、最後に得られる木炭を土地の肥沃化のために埋めている。その分だけ炭素を隔離でき、土地は肥沃になっていく。

人間の持つ可能性は、私たちが従来考えていたよりずっと大きな広がりを持っているのではないか。私は野生の感性を信じながら、微生物というフロンティアに挑んでみたい。

(2022年10月川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています)    

参考記事・動画

person digging on soil using garden shovel