さらなる木材乾燥の飛躍を

 (前回https://tanakayu.com/tennen-191/の続き)
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「量子科学技術研究開発機構(量研/QST)」というところが、2020年10月に面白い記事をプレスリリースしている。
「テラヘルツ光が姿を変えて水中を伝わる様子の観測に成功!-これまでの常識を覆すテラヘルツ光の新たな活用法として期待-」というものだ。


 
 

 そりゃもちろん訳わからない話だ。でもちょっとだけ解説してみよう。法学部法律学科出身の僕だから、「知ったかぶりの雑な知識」だろう。それでも僕は知りたかった。



なぜ温度も高くないのに木材がきれいに乾燥するのかを。
 

 もともと電磁波という枠の中から見てみると、目に見える可視光線も見えない放射能も熱も電波も、同じ電磁波の周波数の違うものだ。木材を乾かすには熱が必要で、水の形で自由に動き回る「自由水」だけでなく、他の元素と結合してしまった「結合水」を乾かさなければならない(下図)。

 水分が減少するためには、複数の原子がつながった状態にある「結合水」の原素のつながり自体を弱くしなければならないから、逆に電子レンジのような波長では水分子全体の原子自体を振動させてしまうので、「電子レンジ」と同じように結合水全体を振動させて乾燥させることになってしまい(現実にそうした木材乾燥炉はすでに存在する)、結合水自体を振動させてしまう。その中で今回のプレスリリースは、「細胞の形や内部構造を支える構造タンパク質」である「アクチン」を、振動により切断するというのだ。
 

 「水面にパルス状のテラヘルツ光を照射すると、テラヘルツ光が届かない水中にも光音響波を介して効率良くエネルギーが伝わっていき」

「水中にある物質を外部から非破壊・非接触で操作することのできる簡便な技術として、医療診断や材料開発等への応用に期待できる」


と書かれている。
 

 いみじくもこの最先端の研究成果と、私たちが開発してきた全く新たな木材乾燥技術とが一致していたのだ。


 

 熱を効率よく伝えるのが「赤外線」で、その範囲の中には近赤外線や遠赤外線が含まれる。その中で特に生命体に関わっている部分が「生育光線」と呼ばれ、その波長の細かさから「テラヘルツ波」の中に含まれる。その「パルス状」のテラヘルツ光を水面に照射すると光音響波が発生し、テラヘルツ光の届かない水中にまで、エネルギーが効率良く伝わることを発見しました、というのだ。


 

 テラヘルツ光は水に非常に良く吸収されるため、水に照射しても表面で全て吸収され、「水中への作用はない」とこれまでは考えられていたが、今回、研究チームは大阪大学産業科学研究所の自由電子レーザーによって発生させたパルス状のテラヘルツ光を水面に照射する実験を行い、水中に起こる変化を可視化することに初めて成功したという(下図)。

https://www.qst.go.jp/site/press/45262.html

 その結果、「テラヘルツ光は、水の表面のごく薄い領域(10 μm程度)で吸収され、プラズマ生成等の破壊的な現象による周囲への影響を起こすことなく光音響波を発生し、その音響波によってテラヘルツ光自体が届かない6 mm以上の深さにまで指向性良くエネルギーが伝わることを明らかにしました」というのだ。
 

 「テラヘルツ光(周波数0.1~10テラヘルツ)」は、光と電波の中間の波長領域(波長0.03~3 mm)にある「電磁波」の一種だが、これまで波長数ミクロン以下の「光」や、波長数mm以上の「電波」は研究されていたが、「テラヘルツ光」は近年まで研究が進んでいなかったという。しかしごく最近、光・電子技術の進展に伴い、光と電波双方の利点を有する「電磁波」として、テラヘルツ波が注目されるようになったという。
 

 「テラヘルツ光」は半導体や高分子材料への透過性が高い一方で、金属や水分に対して反射や吸収等の高い応答を示すため、非破壊非接触で物質内部をイメージングすることが可能となる。その性質を用いて高分子材料の分析や検査等への応用が進められているという。 
 


 一方で水に非常に良く吸収される性質から、テラヘルツ光を水に照射した場合0.1 mm以上水中に浸透することができないため、水中物質への作用はできないと考えられていたのが、水面で熱エネルギーに変換された後、さらに力学的エネルギーに変換されて光音響波として6 mm以上の深さ、すなわちテラヘルツ光が届かない領域まで伝わることを初めて明らかにしたという(下図)。

これが木材乾燥に意味することは、

「テラヘルツ波」であれば水の中を深くまで伝播し、極めて短い時間で効率良く急激なエネルギー注入とそれに伴う圧力上昇により、圧力波である光音響波が発生して熱を伝える

ということだ。

しかも「構造タンパク質」である「アクチン」を、振動により切断するということは「結合水」の結合を分離させられる。この肝心なテラヘルツ波を「抗火石」のケイ素が発生させているのだ。これは天然住宅で使っている「くりこまくんえん」の木材乾燥にも使っている(やや強引にぼくが大場さんに導入するように勧めたのだが)。

だから艶やかな生きた木材のまま、歪みの少ない最高の木材を提供できていたのだ。だから安心してほしい。10年前から天然住宅の木材は、「woodbe」と同じ最高の木材を使っているのだ。
 

 10年以上前から実験して成功させてきた木材乾燥は、この「テラヘルツ波」によって理解できるようになった。そして知ることにより、利用するための勘所も見えてくる。
 

 今、木材乾燥炉活用のために「利用マニュアル」を作っているところだ。完璧文系の僕が書くというのもおかしな話だが。

▲woodbeによる木材乾燥実績(公式サイトより)

天然住宅田中優コラム「持続可能な社会を目指して」より転載しました。

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