騒音・振動に係る基準値
「騒音・振動に係る基準値」では、深夜の音響機器の使用を規制している。ステレオや楽器、カラオケなどは、夜11時から翌日の6時まで禁止されるのだ。ただし備考に「音が外部に漏れない場合は使用可能とする」とある。
建て主さんと話した。
「これなら夜中でも演奏できますね」
「いや、夜は早く寝ますよ。それよりここで録音すると、よく聴いてみると音の中に飛行機の音が混じったりするんですね。あの、最近落ちた飛行場の近くですから」
「そうすると録音用ですか?」
「いや、まだわかりませんけど」という。
健康を害さない防音ルーム
防音ルームの扉は合計で四枚、窓ガラスもまた複層サッシが三枚あった。高い音を消すのはそれほど難しくはない。高い音は軽いものでも簡単に防ぐことができるからだ。
消すのが困難なのは低周波の音、低い音だ。重量のあるものでないと止められない。そして空気層をおいて再度重量あるものを置く。今回の実験ではドラムを演奏してもらった。バスドラムなど、腹に響く音が出ている。-75dBの部屋で鳴らしてもらい、扉二枚を閉じて隣の部屋で聞く。ほとんど聞こえないのでモニターで音を出してもらう。それでやっとわかる。さらにもう二枚の扉を閉じて外に出るともう何も聞こえなかった。
音が伝わらないように浮かした床、重さのあるボード、それらを天然素材だけで組み立てていく。特に重要なのは接着剤で安全なものを探すことだ。
気兼ねなく暮らす
建て主さんは周囲の人に気兼ねしたくなかったのだろうと思う。騒音基準で言えば彼はアコースティックのギタリストだから、超えることはなかっただろう。しかし都心だから漏れないとはいえない。気兼ねして音を出すのが嫌だったのだと思う。
その家には建て主さん自身で切り倒した大きな大黒柱が家の中心に立てられていた。太い皮を剥いたままの丸太の柱が、一階二階を突き抜けて立っている。この柱を最初に運び込み、中心に立てて組んでいったのだという。なんだか建て主の気持ちがわかるような気がした。彼らは音漏れに心苦しい思いをしたり、すぐに建替えして環境に負荷を与えることをしたくなかったのだと思う。自分で伐り出した大きなスギの木を中心に置き、心配なく暮らせる安心な家に住みたかったのだと思う。
それに関われたことをうれしく思う。
天然住宅田中優コラム「持続可能な社会を目指して」より転載しました。
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