石油ストーブと言えば燃料は石油だし、ガスストーブはガス、電気ストーブは電気だ、当然だが。
「ペレットストーブ」は燃料に木材を固めたペレットを使う。
もともとペレットストーブに惚れたのは、燃料が化石燃料じゃなくて森の木材から得られる持続可能な燃料だからだ。できるだけ長く地球と付き合っていくためには、燃料としては木材を使う方がいい。化石燃料はなるべく使わずに木質燃料のペレットストーブを使いたいし、今も使っている。
木質燃料「ペレット」と「薪」の違い
「木質ペレット」というのは、木材をいったん粉状にして固めたものだ。同じような木質燃料としては「薪」がある。薪ストーブなら木材をそのまま燃やすから分かりやすいが、なんで一旦「ペレット」にする必要があるのか。
まず、ストーブの中で自動投入ができることがある。ペレットは一つ一つが小さくてコロコロ転がるので、自動で投入できるのだ。その点は薪ストーブとの大きな違いになる。薪ストーブでは寝床に入ってからも薪を投入しないと消えてしまうかもしれない。つまり自動にはならないので、夜中に目を覚まさなくてはいけない。木材によっては火持ちが長く、夜中使えるかもしれないが、それには木材の目利きが必要になる。
また、薪をつくる樹種は広葉樹を使うことが多いが、ペレットの場合、より成長の早い杉などの針葉樹を燃料にできる。それによって、樹種によっての差がなくなり均一の熱量になるのもメリットの一つだ。また、移送や保管も比較的しやすい。つまり、森の資源を有効に使えて、ストーブの燃料としても、より使いやすくなっているのだ。
「ペレット」を見たことがある人に誤解されやすいのが、接着剤で固めたんじゃないかという疑問だ。実際はそんなことをしなくてもよい。乾燥した木粉に圧力をかけると木材からリグニンが溶けだして温度が下がると固まる。つややかなペレットの輝きは、木材がもつ成分であるリグニンのせいなので接着剤などは使っていない。
さいかい産業・古川さんのペレットストーブ
ぼくが買ったのは、現在は「UNIFLAME」を運営する株式会社「新越ワークス」のペレットストーブだ。新越ワークスは元々「さいかい産業」という会社で開発したペレットストーブを製造販売している。さいかい産業の頃(2007年)に、ぼくは古川社長と出会った。その頃は国内ではペレットストーブの黎明期で、ハッキリ言ってまだいまひとつの製品が多かった。その中で古川さんのストーブは、頭一つ抜け出ていた。中でも「熾火(おきび)燃焼」を利用して燃費を上げていたところが素晴らしかった。それを古川さん自らトントンカンカンしながら作り上げていた。
今でも、古川さんのストーブは自動燃焼(自動着火)のスイッチがついていない。イタリア製のペレットストーブなどはタイマー制御の自動着火機能がついていたりするので便利だが、基盤が故障することもあるので、よりメンテナンスしやすいものにするためだ。そして何よりも自動着火には、大きな電気を必要とする。着火するときに、数百ワットも電気を食うのだ。それがために電力自給をする我が家では電気が足りなくなってしまう。
着火の時の電気消費のために、多くのエネルギー消費をしたくなかった古川さんは、着火剤を作った。この着火剤は古川さん自身が発明したもので、葬儀屋で不要になったチビ太蝋燭を溶かし、ロウに木材カスを混ぜ込んだもので、それを使えば簡単に着火できる。それは今やあちこちの障碍者施設(福祉作業所)で作っていて、彼らの貴重な運営資金となっている。
古川さんがペレット燃料を始めたきっかけは、国内で森が間伐されずに荒れ果てていて、それをどうにかしたいという思いがあったからだった。彼は「義を見てなさざるは勇なきなり」を地で行く人なのだ。
ペレットストーブを導入しようとする人は、何らかの森に対する思いのある人だろう。そういう人にこそ使ってほしいのだ。以前、古川さんに「ペレットストーブをもっと安く売れるようにしたら」と言ったことがある。それに対する古川さんの言葉は意外なものだった。
「金の安さで集まる人たちは、金で裏切るから…」と。
そう価格の問題じゃない。もちろん価格も大事だけど、それに目が眩んだらこんなに山が荒れてしまったり、壊されてしまったりしたのと同じことになりかねない。
森と未来を支える投資を
ペレットストーブを森の健康と共に買ってほしい。天然住宅の木材を届けてくれている「くりこま木材」もペレットを作っているし、それは森の健全化に役立っている。
今では、格好の良い海外メーカーのストーブも多く売られているし、性能もよい。
それでもぼくはさいかい産業のものが好きだ。鉄板が厚くて火傷しにくくて、壊れにくい、日本のペレットとの相性もいいし、国内産なので故障しても部品はすぐに届く。長く使うことを前提にした造りなのだ。買った後のメンテナンスも想定しているし、受け持ってくれる協力業者も地域ごとにある。電化製品のような寿命の短い品じゃない。住宅と同じぐらいのスパンで考えてもいい品なのだ。
もちろん、それは森を守ることにもつながるし、森を守る人たちを応援することにもつながることだ。ペレットストーブを選ぶことはサステナブルな生活を続けていくための手段なのだ。
一つ悔しいことがある。ぼくは素晴らしいと思えるものが出たからと、初期のペレットストーブを買って来た。すると今だともっと優れた品が出ているのだ。新しいエコ設備を導入するときはいつもその悔しさを味わうことになる。でも、仕方ない。次の品を買おうとする人たちへのプレゼントと思って我慢するしかない。それはペレットストーブが技術も進歩させながら、廃れず広がっていることを意味するのだから喜ばしいことなのだ。次世代への投資だと思えば、少しは悔しさも減るかもしれない。
そう、このペレットストーブにも開発を支えるために「未来バンク」で融資したことがあった。他にもいろいろな人からの支援があって、またペレットストーブを導入してくれた家庭や企業があったことによって、古川さんの情熱は火を絶やさずにここまでくることができた。
必要なのは、未来を創るための投資なのだと思う。
天然住宅田中優コラム「持続可能な社会を目指して」より転載しました。
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