電力の地域分散化をわが手に

2021年1月頃、新電力に切り替えていた人たちは高くなった電気料金に肝を冷やしたか、不安に感じたことだろう。


新電力の各社は主に自然エネルギーからの電気を供給し、不足分を電力市場(日本卸電力取引所:JEPX)から買い取らなければならなかった。しかも買取価格は高い電力固定買取制度の価格ではなく、さらにそれよりも高くなった市場価格で買い取らなければならなかった。2017年に制度改正され、市場価格での買取を義務付けられていたからだ。

▲経済産業省HPより

しかもその発電所のほとんどを持つ旧電力会社は電気の供給量を絞り、送電線は原発分の空き容量と称して、新たな発電所の接続を絞り込んでいた。その時の売り手買い手の状態は一切公表されず、ただ言いなりの価格で買うしかなかった。さらに市場価格の入札で買い損ねた場合、制裁的に高くなる料金で買わなければならなかった。それによって、新電力各社は著しい打撃を受けたのだ。


これは2000年にアメリカ・カリフォルニア州で起こった電気価格の高騰によく似ていた。ただカリフォルニア州では、価格の高騰に備えて「一定範囲内での電気販売価格設定」を電力会社に義務付けていた(上昇分を消費者に価格転嫁することができないように規制していた)ので、電力会社の経営が傾くことはあっても、消費者に価格転嫁による大きな被害はなかった。しかし、大規模な輪番停電(一定地域ごとに電力供給を順次停止・再開させること)を行う事態に陥り、市民の生活には混乱をもたらした。

それによって破綻した大手電力会社は負債を払えなくなり、この価格操作の中心を担っていたエンロン社まで関連倒産した。エンロン社は、保有していた発電所の定期検査など(時には、森林火災で送電線網を燃やすなど悪質な手口)で、「恣意的に」供給量を減らして価格高騰を起こしていた。そのことは経営破綻したことで明らかになり、ドキュメンタリー映画として公開もされた。

「エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか? 」


 
これを知っていれば、発電所と送電線網を握っていれば何ができるか手に取るようにわかったはずだ。日本で起きた新電力の価格高騰は、最大約60倍も価格高騰したが、多分やろうと思えば私でも出来たのではないかと思う。

送電線は自動車にとっての道路のようなもので、独占を許してはいけないものだ。ところが少数企業が独占し、しかも自分たちに都合がよくなるように制度を改悪した。再生可能エネルギーからの電気価格は設置者に高く払われているのだから、それまで市場価格に連動させる必要はなかった。高騰した価格の利益は、例えば「東電パワーグリッド社」のような旧電力会社の関連会社の懐を潤した。

我が家は太陽光パネル価格が安くなったので、さらに新しい発電パネルを増設し、これまた安くなってきた中古の「オリビン型リン酸鉄リチウムバッテリー」を増設することにした。寿命は30年以上で、発電した電気を効率よく蓄えることができる。


 
考えてみてほしい。私が最初に設置した頃、バッテリーははるかに高かったが、今やこうして個人宅でも導入可能になったのだ。太陽光パネルも安くなったので、もしあなたが地域で電力自給したいと強く願うのならば、今の電気料金と同額を10年程度支払うというのであれば設置可能となったのだ。


 
ところが今、水道が民営化されて価格が高くなりつつある。つまり人々の生活の根幹部分である公共インフラが多国籍企業に売り払われつつある。こんな時代に「SDGs」は無力のままなのだ。「公共インフラについては私企業に売り払ってはならない」という一文すら持たないのだ。この「SDGs」は無力な宣言に過ぎないとは思わないだろうか。


 
天然住宅は自給エネルギーチーム(「自エネ組」)と共に様々なインフラの自給にも協力していく。私たちにとっては、天然住宅の方が「SDGs」より高い志を持っているつもりなのだ。(2021年5月発行)

天然住宅田中優コラム「持続可能な社会を目指して」より転載しました。

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