低温発火の怖さを防ぐために 気になったらご相談を

これ、我が家の台所のガスコンロの脇の写真だ。

至って普通の風景だろう。

ところがこれが、恐ろしい火事の兆候なのだ。

  

熊本で起きた火災の事例を見てみよう。
その火事は幸い消し止められたが、恐ろしい事態になっていたのだ。

 

火災の起きた現場の写真を見てほしい。

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火災が起きた現場なのだが、見た目には少し汚れた「普通のコンロ」にしか見えない。ところがこれが火災現場となり、建物の上部まで燃え広がってしまった。建築家ならそんなことは見通すだろうと思うかもしれないが、そうとも言えない。

 

この現場の設計を見てみると、コンロ部から木材までの距離は8.5センチあり、その間には不燃物である石膏ボードが二重に張ってあって、コンロ側には不燃素材であるステンレスが張ってあった。

 

普通に言えば、不燃物のステンレスに不燃物の石膏ボード2枚、かなり気を配っているものに思える。しかし燃えた。

 

燃えた跡は壁のステンレスを剥がすと、このようになっていた。

 

 

このような火災は決して少なくない。火災と言えば不燃物である石膏ボードに頼りがちで、壁には見た目の良いステンレスを張ることが多い。ところがこれが皮肉な結果をもたらすのだ。

 

一般的にこのタイプの火災を「低温発火」とか「伝導加熱火災」と呼ぶが、この呼び名自体がすでに理解していないことを表している。「低温発火」についての説明だが、それ自体は正しいので紹介しよう。

「熱源からの熱が木材に与えられ、始めは木材の水分などが蒸発し、木材が多孔質化してゆきます。
多孔質化した木材は断熱性が良く、熱が逃げにくい材料になってゆきます。

その結果、低い温度100~150℃(この温度より低い温度でも周りの状況によっては)で加熱されても木材内部で蓄熱が起こり、ついには引火温度や発火温度にまで達して燃え出すことになります。このような現象を低温発火といいます。

例えば、コンロにより近くの壁材が長い間加熱されて発火する場合、風呂の煙突や暖房のスチーム管に接している木材が長い間加熱されて発火する場合などは、低温発火の可能性が高いです」。

 

これは本来は不燃材である「石膏ボード」、難燃剤である「木材」が、低い温度でも発火してしまうことの説明としては正しい。石膏ボードにも木材にも、もともと結晶化した水分が閉じ込められていて、それが延焼を食い止めるのだ。

 

ところがこの事件の現場では7年間経っていて、コンロの熱によって少しずつ少しずつその構造が蓄積した熱によって多孔化(穴だらけになること)し、100~150℃という低い温度で加熱され、木材内部で蓄熱が起こり、ついには引火温度や発火温度にまで達して燃え出すのだ。これを「低温発火」と呼んでいる。

 

低温発火させないために

 

これが火災の経緯だが、伝導加熱が原因の火災ではない

熱の伝わり方には三つあり、

「対流」

「伝導」

「放射または輻射」

の三つだ。

私たちがエアコンで涼を取ったり暖かさを得たりするのが「対流」だ。これは空気による対流だから、熱としてはたいして効果はない。基本的に空気では熱を伝える量が少ないのだ。

 

次の「伝導」は、フライパンを熱すると柄まで熱くなるというような、伝わってくる熱だ。このような火事を「伝導加熱火災」と呼んでいるが、本当の原因は「伝導熱」ではない。

 

何かというと、「輻射熱」なのだ。電気ストーブの熱を遮ろうとして扇風機で風を起こしても変わらない。電気ストーブからの熱さは「熱」からの放射線なので、風で遮ることはできないのだ。ガスコンロの熱は、炎の外側の外炎部分が一番温度が高く、そこから発せられる輻射熱が熱の正体になる。「伝導熱」ではない。

 

そしてこの輻射熱に対しては、ステンレスはアルミに比べて反射率が良くない。アルミは約90%を反射するのに、ステンレスは約40%程度だ。しかし防熱板としてはほぼステンレスしかなく、そのステンレスは伝導熱を伝えにくいので防熱板に接しているところの熱を下げられるが、熱源本体からの輻射熱に対してはアルミの倍ほど届いてしまう。これはアルミという素材が、輻射熱という放射線に対して反射率が非常に高いためだ。

 

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これは反射率だが、実際の温度で実験したものがこれだ。

 

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実際の火災では、防熱板の後にあった不燃物であるはずの石膏ボードやケイカル板が、熱によって水を蓄えていた結晶が壊されて多孔質化し、100度ほどの温度で発火する。確かに「低温発火」している。我が家のコンロも温度によって焼けた跡がある。パスタや麺を料理するときに、いっぱいのお湯で茹でたいために、「寸胴鍋」を置いて炊くからだ。寸胴鍋は広いために、脇を回り込んだ炎の熱が壁を焦がしたのだ。

火災を起こすほどの熱にとって、まず「対流熱」はほとんど関係しない。むしろ対流する空気によって熱は下げられる。「伝導熱」は直接接触していなければ関係しない。伝導するのは金属などであって、密度の低い他の素材では伝導しない。伝導熱で見ると、ステンレスよりもアルミニウムの方が大きい。

不燃物であるはずの石膏ボードやケイカル板、難燃物の木材を焦がして多孔質化させたのは「輻射熱」だ。つまりこの炎の熱から発せられる放射線である「輻射熱」を遮ることが必要だったのだ。反射率の低いステンレスを使い、その下に不燃物だが熱によって多孔質化の可能性のある「石膏ボード」「ケイカル板」、難燃だが可燃物の「木材」の組み合わせは、長い年月の中で多孔質化し、燃えてしまう心配がある。輻射熱を反射する効果のより高いアルミニウムのような素材で対策はできないだろうか。

このことは木造を主体とする天然住宅でも無視できない。法令上はコンロから15センチ離隔すること、できなければ不燃物で隔離することとなっているが、これを輻射熱から考えると十分な対策とは言えない。まず熱に対しては、「輻射熱対策」を第一に考えるべきだ。しかし「輻射熱対策」は困難でもない。薄いアルミ板で反射できるからだ。

さらに下地には多孔化させない素材が望ましい。長い年月で多孔化してしまえば、不燃物ではなくなってしまうからだ。それこそアルミで輻射熱を遮った先にはステンレスが良いのではないか。

我が家の対策だが、今のままでは長い間には「低温発火」しかねない。いくら木材が難燃物質と言っても、木台に含まれる「結晶水」のおかげなのであって、長年の加熱によって多孔化してしまえばその効果は期待できなくなる。

だからまずコンロ側の面にアルミニウムを張りたい。アルミは伝導熱に強くないから、一センチでいいから空気層を持たせたい。その外側にステンレスだが、これはすでに張られている「石膏ボード」「タイル」などで足りるだろう。つまり、わずかな空気層を取ってアルミニウムを張りたい。

火事の後の現場を見たことがある。燃えた後だからすべて焼け焦げだらけだったが、その原因をペレットストーブからの小さな「火の粉」のせいのように言っていた。ペレットストーブの煙突から、使用時に小さな「火の粉」が出ることはあるかもしれない。しかしストーブの中で最も熱くなる煙突は二重管になっていて、その内側の管しか熱くならないので、その熱では長年経っても壁の木材は多孔化しない、そして周囲が真っ暗でなければ見ることすらできない小さな火の粉が火災の原因になるとは思えなかった。

施工要領どおり煙突を施工すれば、「火の粉」は見えなくなる。しかしそれ以前に、この時の火災の原因こそ「低温発火」とか「伝導加熱火災」であったと思うのだ。対策は簡単だった。わずかな空気層をとって、アルミニウム板を張ればよかったのだ。

わずかな知識と問題意識の向け方が大事なのだと思う。それだけのことで防げた火災のはずだったのだ。 

設計部小野寺による考察

こんにちは、設計部の小野寺です。

今回、このコラムの掲載にあたり、低温発火について私なりに調べました。
最後に私自身の考察も掲載させていただきますので参考にしてください。

「放射で木材の表面温度が100℃になるためには、放射による入射熱が1.23kW/㎡必要。
加熱強度が4.2kWの一般家庭用コンロの場合、受熱1.23kW/㎡になる距離はコンロ中心から25cm」

というのが、建築基準法上の考え方です。

天然住宅でおすすめしているタカラスタンダードのホーローキッチンやオリジナルの造作キッチンでも、この基準は満たしており、コンロ中心から壁までの距離は30cmくらい離れています

コンロからの放射熱に対する対策として「離隔距離」を考えたとき、これは有効だと考えております。

 

ただし、コンロの使用頻度や周辺の状況など、お住まいになる方によって状況は様々です。
例えば、大きな寸胴鍋を日常的に利用する場合は、鍋そのものからの放射も考える必要があります。

 

それに対し、反射率の高いアルミを使用するという対策も検討していきたいと考えています。

離隔距離を十分に確保した上で、不燃材の他にアルミや空気層を利用することで、より安全な住まいになるように、引き続き検討していきます。


こちらより転載

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