新築は冒険
家を建てるのは冒険だ。ほとんど生涯収入の四分の一を使って家を建てるのだ。生活費を分析してみると、貯蓄ができている家庭でも住居費が支出の四分の一を占めるのだ。それを支払うことを決めることは、ほとんど生涯を決めてしまうことに等しくなる。だから住宅を新築することは冒険なのだ。
もう一つある。日本の住宅では15年経つと住宅の価値はほぼゼロになり、20年経つと建て替えを考え始める。西欧では100年経っても四分の一以上の値が付くのに比べると、新築することはやっぱり冒険なのだ。
古民家の改築
古民家を改築して住む人もいる。我が家もみると、新築前は見た目はきれいな古民家に住んでいた。
でも断熱は十分でなく、床下には動物が通れるほどの空間があり、おまけに床下は土のままだった。さらには二階部分の天井裏にはスズメバチまで巣を作っていた。
夏は蚊帳の中に入って寝ていたが、その外側にスズメバチやムカデの死骸が落ちていたりした。妻は虫が大嫌いなので、そのせいで新築したという部分が大きい。
伝統的な建築
ではなぜ日本だけがこれほど住宅価値が下がるのが早いのだろうか。台風や地震など、災害が多いせいだという人もいる。確かに多いが、耐えられるような建て方はできないものだろうか。そのとき面白いのが伝統的な建築法だ。
熊本地震のときに、伝統的な「石場建て」の住居を直しに出掛けた大工たちがいた。そのレポートを読むと、建てていた場所から60センチも動いていたという。もちろん水道管などはダメになって、もう一度つなぎ直したそうだ。
しかし驚いたのは建物本体で、ジャッキアップして位置を戻して、変形した方向の逆に力を加えただけで直ったのだ。石場建てで作った建物は、お相撲さんが四股を踏むように動いただけで、建物を壊しはしなかったのだ。究極の柔構造ではないか。
今の建築基準法では特別な力学計算をしないと認められないが、その柔構造には目を見張る。
建物は頑丈である事よりも柔構造の方が重要なのではないか。
同じように建物内を「24時間換気」にすることよりも、空気を汚す化学物質を使わずに建てて、取り立てて換気しなくても暮らせる住まいの方がいいのではないか。
我が家の「24時間換気」は全部詰め物をして塞いでしまった。
2018年12月発行の天然住宅田中優コラム「持続可能な社会を目指して」より転載しました。
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