本当に「高気密、高断熱」がいいのか(中)

前話↓の続き


 だから窒素が通る穴より、はるかに小さな穴を水蒸気は通り抜ける。高気密を進める時に気密する(遮断を試みている)のは、「外の空気(つまり酸素>窒素>水蒸気の構成をもつ気体)」そのものだ。そもそも窒素より大きな酸素すら入れないようにしようとするのだろうか。それに成功したら窒息死してしまう。ましてや気密における対策の対象である「水蒸気」は、窒素よりさらに小さい。それを完璧に塞いだとしたら、開放されるまでの命になる。それだけ「換気」に頼ったシステムなのであろうか。「気密+換気」のシステムは果たして計算通りにうまく作動しているのだろうか?

 
 
 日本は水素自動車のために「水素タンク」を開発した。それはなんと意外なことに、粘土を薄く重ねることで食い止められたのだ。それは層状にした粘土の「迷路効果」で、迷路のように積み重ねられた粘土の層がブロックして、水素を漏れないようにしたのだ。

 
 
 同じように現在の「高気密」では、単独では水蒸気を食い止められるはずのないビニールとベニヤ板の接着剤を積み重ねて、「高気密」を保っている

 しかし日本には地震が多く、震度4程度の地震は珍しくない。ビニールを貼って気密性を確保しただけでは、震度4程度の地震で裂けてしまう。居住し続けている間、その性能を担保し続けることができるほどのものではないのだ。しかもそれらはシックハウスの原因物質だ。天然住宅では絶対に使いたくない。

 
 
 以前にした話だが、1977年から1979年にかけて断熱材を強化した北海道など寒冷地の基礎などに、「ナミダタケ」と呼ばれるキノコが発生し、木材を餌にしてどろっと溶けたようになったキノコが基礎や梁の材に垂れ下がり、木材を腐られて床下が落ちるといった事故が相次いだ。通称「ナミダタケ事件」だ。

 それはキノコの種類は違ったとしても、湿度が高くて湿った環境で外気温との差が大きければどこでも発生し得る。外気と室内の温度差が小さければこれほどの被害にはならなかっただろう。しかし、寒いままでは暮らせない。この寒い季節に暖房なしでは暮らせないだろう。

壁の中で結露を起こした状態

八方塞がりの話のようだが、外気と室内との温度差で結露する。その主体は水蒸気と温度差だ。水蒸気は風に飛ばされやすいので、ある程度の風量があれば結露は避けられる。だから押し入れの奥とか風の通らない場所がカビやすくなるのだ。天然住宅の主な木材はスギ、しかも無垢材なので、薬品に頼らずとも防カビ効果があって簡単にはカビない。しかしカビたり、腐食したりするのは、ほんのわずかな環境の差で生じ得るので、完全とは言えない。湿気の多い土地であったりしたら、さすがに無理だと思う。この八方塞がりの問題に光が射したかもしれない。


 
 それが室内での水蒸気の発生源の話だ。図を見てほしい。

 一般的な家庭の場合の水蒸気の発生量は、一日あたりで6,520mlに達する。

内訳は

  • 人から発生 720ml
  • ストーブから 800ml
  • 入浴によりお風呂から 1,000ml
  • それ以上に大きいのが炊事から1,500ml
  • さらに大きいのが洗濯・乾燥から 2,500ml

だ。

 
計6,520ml、すなわち

大きな2リットルのペットボトル3本分以上の水を室内に撒き散らしている

のだ。これが家をカビさせ腐らせていく水蒸気の元になっている。


 
 これを減らしていけば、最大の問題である水蒸気を発生させない暮らしにつながるのではないだろうか。

つづく

2022年1月発行の天然住宅田中優コラム「持続可能な社会を目指して」より転載しました。

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