天然住宅で相談を受けていると、「あとちょっとで買えない」という人が何と多いことか。近年収入が減って、生活が厳しくなる人が増えているというが、こんなところにもその影響が出ているのかと思う。当然天然住宅のような「本物志向」の住宅にはさらに手が届かなくなる。
しかしだからといって、長く持たなくてベニヤと接着剤ばかりの安い「建売住宅」に流れていってしまうのも何とかして食い止めたい。家のせいで身体を悪くしたり、長く持たなくて20年後には建て直すか取り壊しになる住宅を野放しにはしたくない。住宅こそ人生最大のゴミなのだ。長く使えるものではなく、わずか20年ほどでゴミになる住宅など、 建ててはいけないと思うのだ。
もし将来、同じ木材を組み替えて建てられるとしても、天然住宅の住宅は約600年使えるだろう。 木材は化学物質で汚染されていないし、家を短命にしてしまうベニヤや接着剤など使っていないからだ。
法隆寺などの木材の研究で有名な「小原二郎」氏の著作によれば、素材のままの力でヒノキの1200年まではいかないまでも、スギだって600年は使える素材だという。木材という素材を高温での乾燥で痛めつけるのではなく、生かせるように使うならば、もっともっと使えるはずなのだ。 天然住宅では、その素材の力を信じて生かせるように建てるのだ。
今回、価格的にも手の届く家を企画した。「KAERUIE」という。「帰る家」として十分な性能を持ちながら、小さいながらも必要十分な空間を備えた家で「買える家」にしたいと性能を下げずに設計した家だ。
設計を担当したスタッフには、いろいろ無理を言った。なるべく軒の出ないようにスマートに設計してあるところに、現実にはそこが汚れることや雨の吹き込みを防ぐために軒の出を出してもらったり、子どもが使うことを考えてなるべく安全な仕様を選択したりと、無茶を聞いてもらった。だって「家」が本当に必要になるのは子育て真っ盛りの頃、一番おカネがなくて生活に精一杯になる時期に必要になるものだから。
ところがあと少しの資金が足りなくて、せっかく天然住宅のコンセプトなどに好感しているのに、他の建売の住宅などに流れてしまう、本当は天然素材の住宅が欲しかったという人たちのなんと多いことか。
営業担当が嘆くのだ。一番届けたい人たちに「買える家」を届けたい。安心して「帰る家」にしたいのにできない。土地の高い都会では、小さくてもいいからそこでゆっくりくつろげる家を建てたい。化学物質を極力使わず、なるべくその後にコストのかからない家で、活動の発信拠点になるような家が欲しい。そう考えて設計した住まいだ。
家の形は小さくてかわいい。でも、“かわいいだけ”ではない。暮らしやすい間取り、使いやすい空間、安心できる素材、環境性能。1階2階合計で22.5坪のコンパクトさでも、家族でのびのび安心して暮らせる住まいを、作ってみた。
価格を抑えたい一方で、ウッドショックや資材の値上げで建築費が高騰する中、それでも天然住宅で家を建てたいと思ってくださるお客様に、自信を持って応られる家を作ろうと試みた。設計担当は「これを機に、住む人にとっての本当にいい家とはどんな家?と、原点に帰り見つめ直しました」という。
それが「KAERUIE(かえるいえ)」だ(名称はスタッフ皆で考えました)。これからの暮らしを“変える”きっかけになることという想いも込められている。
しかし山の人たちの生活を値切りたくない。そもそも天然住宅は薄利多売ではない。それでも安心できるぎりぎりのところまで価格を下げた。水に濡れてもカビない、膨れ上がらない、無垢のスギ材などを自然な形で乾燥させ、森の手入れにも参加する。山の状態まで気を配っている住宅メーカーは数えるほどしかない。それを「長所」と言えるように頑張って企画した。家は買えば終わりではないのだ。
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田中優天然住宅コラムより転載しました
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