(2022年)11月25日、日経新聞によれば、「原発の停止期間を外し、原発運転期間延長を延長し、 政府は原発運転期間の上限撤廃見送った」としているので、「運転期間の上限撤廃」はなくなったと読めるのだが、そうではない。この「運転期間(原則40年・最長60年)」は福島第一原発大事故の教訓として定められたものだった。
この「運転期間40年まで」は、原子炉等規制法の「規制条項」として定められたもので、所管は原子力規制委員会の権限として作られた。それが今年(2022年)8月、岸田総理が指示を出して経済産業省に説明を求め、10月5日に実施したものだ。
そこで「運転期間40年」は「規制条項」ではなく「利用政策」としたことから、経産省の考えで決めるとしたのが今回の報道だった。
しかしここでこの「規制条項」を原子炉等規制法から削除し、経産省所管にしていることが大問題だ。
立法府である国会の範囲から、「運転期間」は通産省の考える「利用政策」でやりますということで、
「国会議員に口出しさせず、行政機関で勝手にやります」
ということなのだ。
法で決めたものを行政機関に壊せることが、大問題なのだ。
なんでこんな細かいことに目くじらを立てるかというと、こんな二つの事態が分かったからだ。
首都圏でのガン多発
一つ目は2011年の原発事故当時から思っていた被害が顕在化したことだ。
「がん登録法」という法がある。病院でがん医療の状況を適確に把握するもので、当該病院で行われた診療、転帰等に関する詳細な情報を記録したものだ。
この記録の実数を元にして分析すると、東京、神奈川を含む被ばくした12都県でがんが多発しているのだ。放射線被ばくはすぐに影響するものではない。「ただちに影響する」ものではないのだ。それをいいことに当時の枝野幸男官房長官は「直ちに影響はない」と繰り返した。
この「直ち」の期間が終わったのだ。最初は事故の翌年からだった。少しがん患者数が増えた。
しかし明らかに増えたのは2016年、事故から5年後からだった。しかしがん被害の想定では、約10年後からが本格的に増大する。しかし登録法の数字はまだこれから発表され未発表だ。
しかしたった5年後の数字はすでに衝撃的なものだった。
東京都と神奈川県ではすでに62万人以上も増えてしまっているのだ。
それは原発事故の影響が少ないと思われる香川県と比較してもその数字だ。これは「直ち」の期間の終了を意味する。
がんの発病は体調だけでなく経済的にも甚大な影響を与える。こんな事態になることはチェルノブイリ原発事故の影響を見てきた人には驚くに値しないだろう。しかしこれほどの影響を及ぼす原発を、厳しく規制するのではなく緩和して稼働させようというのは正気の沙汰ではない。
しかも原発から出された放射能の影響は、まだまだこれからも続く。ピークを迎えるのが40~50年後、元に戻るにはその倍ほどの年数がかかるだろう。しかもがんの元となった放射性物質はまだ残っているのだから、被ばくはこれからもするのだ。
原発事故の可能性
もう一つの恐ろしい事態を伝えよう。それは新たな原発事故の可能性だ。
福島原発は「沸騰水型」原発だった。西日本を中心に広がっているのは「加圧水型」原発だ。
これらが今再度稼働させられようとしているのだが、この「加圧水型」原発には特有の危険性がある。
加圧水型は炉内が狭い。そのためぎゅっと押し込められた燃料が圧力容器のお釜の近くにあり、その鋼鉄でできたお釜は放射線にさらされるのだ。放射性にさらされた鋼鉄は次第に弱くなり、弾力性を失う。「脆性(ぜいせい)破壊」というのだが、急な温度差によって割れる危険性が高まるのだ。
ちょうど熱湯で暖めたコップに冷たい水を入れると、急に割れが入るようなものだ。
「加圧水型原発」では、それが70気圧に加圧されているので300℃でも沸騰しないようにしている。それが割れたらどうなるか。
そのため原子炉の中には同じ鋼鉄片を入れて、どれぐらい「脆化」しているか調べている。
ところが佐賀県にある玄海原発一号機では、最初はマイナス16℃まで耐えられていた鋼鉄が、なんと98℃まで「脆性破壊温度」が上っていた。万が一の時には水をかけて炉を冷やすのだが、その温度では割れてしまう可能性がある。割れると圧力を上げて286℃まで上げていた圧力容器内の水は、一瞬にして蒸気となって飛び散り、空焚きが起こる。福島原発事故を上回る悲劇が起こることが容易に想定できる。
それなのに政府は単なる経産省の決める「運転期間」で延ばそうというのだ。こんな政府や電力会社では住民は救われない。なのに肝心の国民はそのまま徒過させられようとしているのだ。
今では日本国内に残された唯一の放射能汚染されていない大地も、風前の灯火だ。
どこにも逃げ場所はない。
きちんと調べないと「発がん」すら避けられない。そんな国土にしてしまっていいのだろうか。岸田首相は原発運転期間の延長を、地球温暖化対策を理由にした。そんな先の話ではなく、目前の危機なのだ。
おそらく今の「脆性破壊温度」は100℃を越えている。
水は大気圧では100℃で沸騰してしまうのだから、水で冷やすことなどできない。
こんな危険な原発と共存することなどできないと、常識ある人なら思うだろう。
私はそれでも人々の考えの結果に従わなければならないことに恐怖する。ただこれだけの事実を並べるだけでも原発と人間は共存できない、危険性はすぐそこまで迫っているのだということに気づくだろう。私が岡山に転居したのはこのことを予想したからだ。
しかし次の事故では国内に避難先はない。このような未来を誰が望むのだろうか。安心させようとするためか大丈夫であるかのように言い、「直ち」でなければ大丈夫のように言うのは明かな誤りだ。そのせいで人々が安心して暮らしているとすれば、それは砂上の望楼に過ぎない。
気づいてほしい。本当は安心ではないのだ。安心するためには利益のためなら平然と嘘を言っていることに気づき、本当の安心のために原発を廃止し、その跡地を厳重に管理するしかない。
(2022年10月川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています)