死番虫
これは「シバンムシ」と読む。死の番人をするということで「死番虫」だ。英語でも不吉なことに「death-watch beetle」という。ヨーロッパ産の「マダラシバンムシ」の成虫は、頭部を家屋の建材の柱などに打ち付けて雌雄間の交信を行うそうで、その音が死神が持つ死の秒読みの時計(death-watch)の音に似ているからだそうだ(誰か死神の時計の音なんか聞いたことあるんかい)。和名のシバンムシは英名を元に死番虫と命名されたそうだ。
なかなか不気味な名称を持つ虫だが、要はとても小さな甲虫だ。この生態は未だに不明な部分が多いそうだが、乾燥木材を主に食べる食材性の群と、きのこを主に食べる食菌性の群に大別される。かなり悪食のものもあり、タバコや漢方薬の類まで食べるものもいるそうだ。
古民家の木材
我が家を解体したとき、シバンムシに食害された跡が見つかった。この写真がそうだ。細かい穴が開いているが、これは幼虫が成虫になった後、外界に出ていった跡だ。このとき木材の内側は、スカスカになってしまっていることもある。最近人気のある古民家だが、すべての古民家が十分な強度があるとは限らない。ぼくは正直、古民家を解体したときにほっとした。木材がこんなになっていたとは思わなかったからだ。
他にも驚くことがあった。使われていた木材に、明らかな燃えた跡があったことだ。岡山の森は驚くほど若い。山に大きな岩が露出している部分も多いが、それは長年森だったなら考えられないことだ。森は戦後に育った森なのだ。それまで岡山の山は、かつてはたたら製鉄の木炭材料として、戦前戦後は煮炊きや製材のために、徹底的に過剰利用され続けていたのだ。だから燃え残った家の木材をも再利用したのだろう。
マツタケの産地
それを端的に示すのがマツタケだ。戦後ずっと、岡山はマツタケの一大産地だった。その頃は森が乏しかったからマツが生えたのだ。しかし地味が豊かになるとマツは滅びていく。マツに共生する菌根菌が滅びるためだ。備前焼に欠かせない燃焼温度の高いアカマツは、今や森の中で枯れつつある。それは植物の遷移なのだ。いくら人々がアカマツを植えて復活させようとしても無理だ。岡山の森は、今や回復して豊かな森になろうとしいる。
おそらくシバンムシに食べられた梁の木材もマツだったろう。マツ材は「マツザイシバンムシ」という種類の虫がいるほど食べられやすい。防ぐことが難しい材なのだと思う。シバンムシは25年以上経過した木材なら食べ始める。その対策を考えなくてはいけない。
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2017.4.25発行 田中優 天然住宅コラムより転載