ウイルスは敵じゃない、胎児はウイルスが作った胎盤のおかげで生まれた

友人に勧められて「胎児のはなし」という本を読んだ。もともとウイルスを調べていて、 胎盤というもの自体を生み出したのはウイルスだったのだという話を読んで、不思議に思っていたのだ。

 その胎盤はものすごいフィルターで、母と胎児が血液型が違っていたとしても育ててしまう。本来なら異物として排斥される胎児を、胎盤のおかげで育ててしまうのだ。弱い生き物であるヒトが胎児として匿って育てるおかげで、圧倒的に生存の可能性を高くした。そして年中子宮の羊水の中で、水中生物として胎児を育てる。胎児は生まれるときに狭い子宮をくぐり抜ける中で、肺まで満たしていた羊水が排出して肺呼吸に移り変わって生まれる産声を上げる。その時まで胎児は水中生物として生きているのだ。    

 その胎盤は他の哺乳類ごとに違ったものになっている。発生した時から備わっていたなら同じはずなのだ。進化していく中でそれぞれが備えたものらしい。

 その胎児はもちろん父と母の遺伝子を持っている。ところが面白いことに胎児を経由して父の遺伝子が母に贈られたり、胎児の遺伝子が母の病を治したりするという。しかし母から胎児に贈られるミトコンドリアというものもある。これはかつて別な生き物だったものを細胞内に閉じ込めて共生するようになったという。これは母からだけ受け継ぐので、ミトコンドリアの遺伝子は一方的に母から受け継がれる。ではその元になった母はと調べていって、ヒトはアフリカ由来の「ラッキーマザー」と呼ばれる母の子であったことがわかったのだ。    

 私たちの体内で効率よくエネルギーを生産しているのはこのミトコンドリアのおかげで、ヒトは瞬発力があるが効率の良くない「糖代謝」から、生長しなくなると次第に効率の良い「ミトコンドリア代謝」に切り替わる。なぜ私が歳を取って少食になったのに、それまでと同じように動けるのかがやっと理解できた。    

 今回、「国立がん研究センターなどの研究グループは、子宮頸がんの母親が出産した際に、がん細胞が混じった羊水を肺に吸い込んだ子どもが肺のがんになった症例を確認した」と発表した。胎児は羊水に守られて感染しないが、産声を上げて肺呼吸を始めた時に、子宮頸がんウイルスに感染してしまったということだという。遺伝子を調べると母由来の遺伝子であったことがわかり、幸い「免疫チェックポイント阻害剤」の効き目に効果があり、二例とも完治したという。残念ながら二例とも母は亡くなってしまったそうだ。    

 こうしてみると、ヒトとは単独で生存しているものとは言い難い。私たちの遺伝子にはウイルス由来のものがたくさんあり、また細胞の中には他の生物由来のミトコンドリアがある。私たちは数限りない生命のつながりの中で生きているのだ。だから消毒薬でウイルスまで殺したり、抗生物質で体内の細菌を殺したりすることが解決策とは思えないのだ。    

 ウイルスは自己複製機能を持たず、寄生した細胞に作られることから、一般的には「生命とは認められない」が、やはり周囲を取り巻く生命体であると思う。しかもウイルスは人間と同じように真っ直ぐ一本の遺伝子を持ち、変幻自在に変化する。今回のコロナウイルスに効果あるワクチンができたとしても、ウイルスはさらに変化してしまうのだ。    

 今回のワクチンは体内の遺伝子を変化させて対処しようとする。これはワクチンを打った人の体内での遺伝子操作を行うもので、未だに完全な安全性が担保されてはいない。そのような乱暴な方法が、薬品会社の利権の前に実現してしまった。    

 私としてはワクチンに頼りたくはないし、ワクチンのせいで重症化して死に至る事例をよく見ていた。多くの事例が「サイトカインストーム」と呼ばれる「自己免疫の過剰な反応」に由来していた。また逆に百年前に世界的に流行した「スペイン風邪」の時には、全世界で膨大な犠牲者を生み出しながら、日本やアジアの沿岸地域では犠牲者が少なかった。その地域の食べているものを見ると、海産物由来の海藻を多く食していた。この海産物だが、ウイルスが発生したのはヒトも植物も陸に上がった五億年前よりはるか以前で、ヒトが水中生物だった時代だ。つまり海産物の方がウイルスとの関係がはるかに密接だった時期だ。    

 私は海の中で動くことのできない海藻のような生物の方に、はるかに長年の対策の蓄積かあると思う。自然な免疫を作り出しているのは主に「胸腺」などで、それは胸腺以外の腸内の微生物群からも作り出されている。消毒液を手のひらに塗ると、そこだけ常在菌と呼ばれる当たり前の細菌が死に絶え、そこに次に住み着こうとする微生物やウイルスに新天地を与えることになる。「花王」の研究によると、手の表面にいる常在菌が作る「乳酸」が、手を保護しているのだそうだ。    

 ここに解決の糸口があるのではないか。自己免疫病が世界中で新たな脅威となっている。それを防ぐのに、ブルーバックスから「免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか」という新書が発売されている。

「制御性T細胞」は自己免疫の暴走を抑止するために出される信号で、それによって自己免疫病の暴走を抑える仕組みが研究されている。  

 

 このことが希望なのではないかと思う。ワクチンも結局、自己免疫に期待するのだが、残念ながら免疫の暴走を起こす事例が増えている。もっと自然な形で治癒させることができないものだろうか。

 無暗に他の微生物やウイルスを敵にして殺すのではなく、共生していける道を探りたいのだ。残念ながらこのウイルスとの闘いに終わりはないだろう。なぜかと言えば「天に唾する事態」どころか身体に共生している微生物やウイルスを滅ぼそうとするのだから。

 スギなどの木材の精油分にも「抗ウイルス効果」が認められている。進化の先輩格の生物はそれを敵にするのではなく、共存しながら抑止する手段を持っている。そうなれば一番良いと思うのだが、それまで人類が持ちこたえられるのか。  

 消毒薬のような飛び道具や核兵器に頼るのではない「平和を構築する手段」を模索してほしいと思う。