臭いに敏感になろう  

子どもの頃、いい香りのする消しゴムをとても良い匂いだと思った。ところが匂いを詳しく嗅いだら気持ち悪くなった。以来匂いのする消しゴムが嫌いで、近くに寄るのも苦痛になった。

同じような体験はその後もずっとある。車内の芳香剤や洗濯物の芳香、電車内でのきつい香水の香り、逃げ出せない場所での香りなど、実に苦痛だ。思い出してみるとそれぞれ体感的な臭いの感覚がある。家の物置に置かれていた農薬DDTの臭いは乾いたような臭いがした。新築の家には絡みつくような臭いが、新車は無機質な甘い香りがした。  

今でも何か新しいものに出会うと、まるで犬のように臭いを嗅いでしまう。頭では何がわかる訳ではないと知っているが、臭いを本能的に嗅いでしまう。でも今になって思えば、正しい反応だったのかもしれないとも思う。  

今回、「病み、肥え、貧す」という本を読んで、内分泌ホルモンかく乱物質の現在を知って、その危険性に改めて思い知らされた。



今の日本では、身体に危険性ある農薬や重金属、カビなどは

「ADI(一日摂取許容量)(一生涯毎日摂取しても健康への悪影響がないとされる一日あたりの摂取量)」

「TDI(耐容一日摂取量)」

で規制されている。

 

その基準は、「こんなわずかな量なら安全」という考え方によっている。要は「摂取量が一定量を超えなければ大丈夫」という考え方だ。ところがそれが通用しない世界なのだ。それは私たちだけの間違いではない。社会全体がまだ十分に知らないからなのだ。  

 

「内分泌ホルモンかく乱物質」のような有害化学物質には、量と関係ない影響もある。私たちの身体は、進化の過程で非常に綿密に微妙なスイッチを作り上げた。ごく微量の刺激でスイッチが入ったり切れたりするのだ。いわばボリュームスイッチがなくてオンオフのスイッチだけがあるものもあるのだ。成長に応じてオンオフのスイッチだけが必要なものがある。

 

そのときの「内分泌ホルモン」は、年頃になれば髭が生えたりするように、性成長が促されたりする場合には、ほんのわずかな「内分泌ホルモン」が促している。その量は競技用の50メートルプールにわずかスプーン一杯の量で足りる。そのわずかな刺激を与えるホルモンによく似た「偽ホルモン」が「内分泌ホルモンかく乱物質」なのだ。  

科学の発展は厄介なものを作り出してしまった。それにいち早く気づいて警鐘を鳴らしたのがシーアコルボーン氏らの書いた「奪われし未来」という本だった。

 

しかし特に日本では、それから被害が無視される時期が長く続いていた。そこに科学的な例証を伴って昨年末に出されたのが「病み、肥え、貧す」という本だった。  

 

量的な違いが生まれない場合があるというのは、とてつもない衝撃だ。今も従来の考え方が通用しないのだ。というのは日本では、従来からの考え方に留まりたい化石のような御用学者たちは被害を否定し、影響の出そうな業界は被害を過小評価し、政府はまだ分かっていないことを言い訳に従来通りの対策のままにした。「そのおかげで他の化学物質を含めて対応が遅れた–」というより、日本の場合「対策されていない」。

 

こうした「偽ホルモン」を、従来通りに有害になるのは「量的な問題」とし、超微量で効果を発揮する「偽ホルモン」を無視する。それを、欧米では「予防原則」を用いて規制したが、日本のように「予防原則」を法理として認めていない国では、対策されることがなかった。  

 

かつてのラジオには選局チューニングの他にはスイッチが一つだけだった。そのスイッチを右に捻るとスイッチが入り、もっと右に回すと音のボリュームが大きくなった。この旧式ラジオスイッチが人々の有害物質のイメージなのだ。だからスイッチを入れても聞こえないほど小さな音なら人体に問題は起きないと思い込んでいるのだ。  

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しかも「偽ホルモン」の被害はその世代だけに留まらない。このことはそれまでのセントラルドグマ(分子遺伝学の基本原理)とは違っている。遺伝するのは遺伝子配列に刻まれたものであって、後天的なものは遺伝するはずがないはずだった。ところがこの「偽ホルモン」の影響では、孫世代に影響を及ぼすのだ。  

 

このことを知ったのは新たな農薬であるネオニコチノイド農薬の影響からだった。その「偽ホルモン」の被害は、遺伝子的影響も直接摂取した影響も届かないはずの孫世代に出ていたのだ。

母マウスが子を「食べ殺す」事態が発生していた。こうした「偽ホルモン」物質は、現時点で800種類も認められている。かつて「絶縁体」などとして大量に使用され、今なお環境中に相当量が残存している「PCB」や、プラスチックの可塑剤の「フタル酸エステル」、有機リン系殺虫剤のクロルピリホスネオニコチノイド農薬の母親を介しての胎児期曝露などが、子どもの注意欠陥・多動性障害(ADHD)や神経発達に影響している

 

他にも「生殖系、免疫系、代謝系」などへの影響が次第に明らかになりつつある。すると「偽ホルモン」はコンビニで買った弁当をレンジでチンしただけで溶け出し、プラスチックの容器を食洗機を使って洗った時の傷から溶け出し、レシートの感熱紙を触っただけで皮膚から取り込まれる。  

 

ぼくが以前から問題にしている「ネオニコチノイド」という農薬も同じだ。こうし「偽ホルモン」の影響は遺伝子に刻まれたものではない。これを「エピジェネティック」といい、今まさに研究されている最中だ。それは主に、遺伝子の語尾に「DNAメチル化」と「ヒストン修飾」という形で、余分な分子が接着した影響だという。  

 

これが今私たちに負荷された被害だ。それは今の時代を生きる人たちに余分な被害と治療費の負担としてのしかかっている。私たちは不自然で気持ち悪くなるような臭いに敏感なままでいよう。それは意外なことに「偽ホルモン」を感知しているのだ。化学物質過敏症の人が増加しているのは、人が危険を察知する正常な反応かも知れない。  

 

私は臭いで嫌ったり、食べることができないものがある。それって良いことなのかもしれない。今までは自分の勝手な「好き嫌い」なのだと思い込んでいたが。芳香剤はほとんどダメだし、薬品も嫌いだ。それは本能が教えてくれる大切な情報なのかもしれないのだ。もっと自信を持っていいのかもしれない。

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2022.4.30発行 「違いのある加害 有害化学物質の危険性(上)」にてレポートしています

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