「寒さだって役立つ資源~あるものを探せる人に~」

歳時記

かつて学校に勤めていた頃、給与・ボーナスは現金で支給だった。だから数千万円を下ろしてきては、担当者がせっせと現金を数えていた。


ボーナスのときにこんな会話が出る。

「このおカネを盗んで高飛びしたら、どれぐらい暮らせるかな」

「うん、海外じゃないと足がつくし、数年で終わっちゃうかな」

「でも退職金はパーだし、やっぱり盗んでもダメだな」

「そうですね」


高額の退職金が「フラチな夢」の抑制になっていた。その後、給与はすべて口座振込に変わって、この「フラチな夢」はなくなってしまった。このフラチな夢の会話が、延々と毎年繰り返されていた。「このインローが目に入らぬか」みたいに、毎年毎年同じ会話をする。  歳時記だな、これはと思った。


同じように、天候の話題も繰り返される。

「今年の冬は寒いよねぇ」

「特別冷えますね」

「温暖化だなんて、やっぱウソだな」

「こんなに寒いと外に出る気がしないですね」

「早く春にならないですかねぇ」

「そうだなぁ」

こんな会話、した人、手を挙げてください。

いや、パソコンの前で挙げても見えないですよ。

アイスシェルター

しかしこれを活用した人がいる。

 去年、てんつくマンに誘われて洞爺湖に出かけたときのことだ。「アイスシェルター」というものがあって、面白いから見に行こうと誘われた。でもマジメな農家というと、ぼくのイメージはガンジー爺だ。いいかもしれないけど、なるべく敬遠したいタイプだ。

 しかし佐々木ファームさんに行くと、若くて不真面目なイメージの(失礼!ホメ言葉です)佐々木さんがいた。この装置についてあれこれ聞くと、「それがわかったら、今ごろぼくはこんなところにいませんよ」と屈託なく笑う。実にいいヤツだった。

 

左 佐々木さん
佐々木ファームのアイスシェルター

 そこにあった装置が「アイスシェルター」だ。  大きな施設で軽トラックが積荷を乗せたまま入ることができる。シャッターを空けた場所に所狭しと農作物が並べられている。ここは野菜やジャガイモの保管庫なのだ。

しかし冷蔵庫ではない。電動ではないのだ。この大きな施設の壁には断熱材が入っていて、熱を逃がさないようにしている。しかしその内側に並んでいるものが特別なのだ。やや小さめのバスタブのようなものが、びっしりと並べてある。




上から下までぎっしりと。そこには水が貯まっていて、溶けたもの、半分溶けたもの、まだ凍ったままのもの、それぞれある。これを凍らすのが今ごろなのだ。

洞爺湖周辺はマイナス20℃なんて日がざらにある。だから冬場の北海道人は互いにマイナス」をつけずに話す。「今日は20℃ですね」なんて。春のうららかな日なんかイメージしたら凍え死んでしまう。年に一回だけだから、終わると釘で打ちつけてしまうと言っていた。するとずらっと並んだバスタブの水が凍り始める。そんなことしたら、何もかも凍ってしまうと思うだろ? 
 

でもここに水の不思議な性質があるのだ。水は凍るときに熱を出す。「潜熱」というものだ。そのおかげでシェルター内は零℃に保たれる。この一度で凍結を終えると、あとは一年間ずっと使う。暖かくなると水が溶ける。溶けるときには周囲の熱を奪うので、一年中零℃に保たれるのだ。それが一年もつように、たくさんのバスタブが並んでいたのだ。

「歳時記」を逆手に取る

このおかげで、野菜は新鮮に保たれる。しかもあらゆる冷暖房装置の欠点は、空気を乾燥させてしまう点だ。しかしこれは湿度がたっぷりある状態で冷蔵するので、野菜はまるで生きているみたいに保存される。同様に雪を用いてコメを保存し、おいしいまま出荷する試みが、寒い地域である北海道や上越、東北にもたくさん行われている。これは「雪室」だ。 

 こうした利用方法を「氷雪エネルギー」と呼んでいる。北海道の老人施設では夏場の冷房に使われていたりする。湿度が高い冷房は、野菜だけしかも北海道を代表するジャガイモでは、この温度がジャガイモの糖度を増すそうだ。ほっこり甘いジャガイモになるから、とても喜ばれる。そして近くにあるサミットにも使われた高級食材に、この野菜が使われているそうだ。施設そのものは決して安くはないが、それなら元が取れるのではないか。 

 この話は風が強くて困っていた山形県立川町の風車に共通する。ただの「困ったこと」に終わらせず、それを逆手にとって利用したのだ。ただの「歳時記」に終わらせない地域の知恵だ。

あるものを探せる人に

あるとき、地域を活性化できる人には特徴があることに気づいた。

 この地域には「~がない」という人が地域をダメにする。
 逆に地域を生かせる人は必ず、「~がある」と探せる人
なのだ。 

 
 もしかしたら人に対しても同じなのかもしれない。私たちは軽々しく「あの人は使えない」などと言う。そのときには学力だったり、仕事の早さだったりするのだが、その一本だけの価値軸しかないことが私たちの暮らしを窮屈にしている。パソコンを打つのが早いとか、良いプログラムを考えつくとか、仕事以外の実生活の中では何の役にも立たないことで判断している。 

 それより「この人は動物に好かれる」とか、「一緒にいるとほっとする」とかそっちのほうがいいのではないか。 その能力を役立てられる仕組みを作れる人が一番いい。 

 
 ぼくの友人で、人を役立てるのがとてもうまい人がある。しかも相手は気難しいお年寄りだ。どうやっているのかやっとわかった。彼は全員で出かけて、事務所を留守にするとき、ただカギを掛ければいいだけなのに、わざわざ近所のお年寄りのところに行く。 そして「これからぼくら全員出かけてしまうんで、留守番をお願いできますか」と言うのだ。翌日にはお年寄りは「この団体はオレがいないとちっとも成り立たないんだ」と言っているそうだ。

 人はいつも役割を欲している。 
その役割を届けられる人が、一番素晴らしい人のように思うのだ

未来にワクワクする 

今日もまた、「歳時記」のような会話が出てきたら、今度はそれを逆手に取る方法を考えてみたらどうだろう。

 地球温暖化を調べたところ、この冬の寒さは温暖化で北極海の氷が溶けたことに関係していた。相対的に温度が高い海水面で上昇気流が起きて低気圧になり、その登った気流が落ちてくるのがシベリア高気圧であるらしい。そのシベリア高気圧こそ、日本に冷気を送り込んでくる本体だ。 

 だから今後、地球温暖化が進むほど、日本の冬は寒くなっていくようだ。

「今年の冬は寒いよねぇ」

「特別冷えますね」

「温暖化だなんて、やっぱウソだな」

「こんなに寒いと外に出る気がしないですね」

「早く春にならないですかねぇ」

「そうだなぁ」

ではなくて、アイスシェルターを考えたほうが生産的だ。

 いや、生産的であるかどうかなんて二の次だ。それより未来にワクワクできるじゃないか。
ワクワクしているとき、ぼくは生きていて良かったと感じるのだ。

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田中優有料・活動支援版メルマガ 2012年3月に発行したものです

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