ALSになったら生命保険、どうしよう

  ぼくは未来バンクの代表をしていて、ついでにNPOバンク連絡会の代表もしている。そのため「NPOバンク」の仲間から、こういう融資はできないかと相談される。  

 これから何とか実現したいのは、ALSに対する支援だ。ALSとは「れいわ新選組」の舩後氏がそうであるように、「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」という運動神経系の難病だ。次第に体中の筋肉が弱っていき、精神活動に影響はないが体が動かなくなっていく。その速度には個人差があり、死亡までの年数も大きく異なる。原因は不明で遺伝性ではないようだ。日本全国に約一万人の患者がおり、毎年1000人が罹患する。高齢者の発症が多く、やがて呼吸筋も衰え、発語や呼吸、口からの飲食も困難になっていってしまう。精神活動に影響はないから思考はそのままだが、次第に筋肉でできている肉体の中に閉じ込められていくような難病だ。    

 こうした病に罹患する人が次第に増えている。しかし難病とされるほど発症者は多くないために、ある日突然に襲われる人が多い。  

 ここでとにかく大事なのが経済的な不安を払拭することだ、その中で重要なのが民間の生命保険に入っていたら、生活に困って即座に解約したりしないことだ。忘れていても「特約」に加盟していることもあるし、そうでなくても生命保険の「高度障害」に該当すれば、生きているうちに生命保険金が全額もらえます。ただし解約した後では請求できない。とにかく焦って解約しないことが大事だ。   

 しかも残念なことに、保険会社は勧誘には積極的だが、支払い・給付については消極的だ。その結果、請求がなく失効する生命保険が多額に上るのだ。その他に心配なのが医療費などだが、通常の医療保険だけでもかなりの部分がカバーされる。通常の保険に加えて高額療養費、その認定証だけでも相当カバーされる。加えて身体の不自由の程度に応じて障害者手帳、手当もある。まずもし万が一罹患したら、各都道府県にある「日本ALS協会」またはその支部に相談してほしい。    

 一方生命保険で逆に、急がなければいけないこともある。その生命保険が満期になってしまうと、もらえる額が数分の一になってしまうのだ。せっかく掛けてきたのに実に勿体ないことになってしまう。だから万が一の時は協会にすぐ連絡して相談するのが望ましい。     

 今NPOバンクが先に進めようとしているのが、もう一段超えた支援の方法だ。さて保険に加入していて資金は入ることになった。しかし支給されるのはあくまで「高度障害」というように障害の程度に応じてだ。一方、ALSは改善することはない。症状を一部抑えられたとしても完治はしない。「障害」といわれる由縁だ。するとこんなことが起こり得る。   

「今は何とか歩けるが次第に動けなくなる。動けるうちに出掛けたいところがあるのだが、保険金は「高度障害」に認定されなければ出ないので、動ける今のうちに出掛けたい」とか、

「認定以前に家を障害に対応して改修したいのだが、認定されてからでないと保険金は得られない」

というようなこと、もっと誰もが陥る事態に

「医療費を払うのにやっとで、保険契約を解約して払いたい」

というような事態だ。     

 これに対応できる仕組みとしてNPOバンクから融資できないかと相談されたのだ。我々も金融の一部なので真っ先に考えるのは返済資金の確保だ。返済資金があるなら融資したいし、ないのなら難しいということになる。  

 この場合、ALSの診断が確かで生命保険に入っているなら「高度障害認定」は将来確かだ。しかし人はいざとなるととんでもないことをする人もいるから、確実に返済される担保や保証人がいればできる。それを整えうることによって融資が実現できるかもしれない。それができれば「贅沢」なんて言われずに、自分の積んだ生命保険金によって身体の動くうちに遠出できるかもしれない。高度障害まで進んでしまったらできないことが、今ならできる。それは大きな希望になるのかもしれない。     その融資を実現するにはまだまだハードルがある。保険金請求権は、債権として扱われるとしても保険会社に請求権を質権設定しなければ担保の効果がない。  

 そのための「通知」、または「保険会社の承諾」が必要になる。これを「内容証明郵便」などで確定日付付きの法的に安定した盤石なものにするかがNPOバンクの側に問われるのだ。    

またこの融資する額の範囲をどう考えたらいいだろうか。融資できる額を大きくしたいとは思うのだが、担保される額より大きくすることはできない。するとパラドックスが生じる。医療が発達して生存期間が長くなるのはうれしいことだが、生命保険に担保される額を越えては困る。    

 こうしたことの検討に時間を要したのでは、それだけ助けられる範囲が狭まってしまう。それでもNPOバンクは進めようとするだろう。そこに制度の網からこぼれて生活が困難になる人がいる限り、そこに互助の仕組みで助けられる事例があるならば、なんとかしたいと思うのだ。

 NPOバンクが見つめる資金ニーズは、生活に欠くことのできない「エッセンシャル」なニーズだ。   

 その次に考えているのは地域で電気を自給していくための資金ニーズだ。電気は電力会社に頼らなければできないと考えていたから、横暴で不正な電力会社の送電線につながらなければならなかった。でも今や、地域に太陽光発電とバッテリーを小さく設置して、地域で電気を自給する道が開けてきた。しかもそちらの方が日を追って安くなり、アメリカの大手電力会社はガス火力発電所を建てるのを止めてしまった。     

 私たちの未来には次のフェーズが生まれつつある。これをそのまま放置して、火を消してはいけないと思う。そのためのNPOバンクなのだ。資金を市民自らが出資し、市民が運営する事業に低利で融資して、未来の希望を作っていきたい。この歩みは小さくとも、必ず未来の可能性を拓くだろう。そのために私たちはさまざまに検討し、確実な実行を続けるのだ。   

(2021年8月、川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています)