旧ソ連崩壊後、プーチンはタクシー運転手をしていたという。
「正直言うと話したくないが、残念ながら事実だ」。ロシアのプーチン大統領は昨年末にテレビ放映されたドキュメンタリーで、「ソビエト連邦崩壊後の一時期、個人タクシーのアルバイトで副収入を得ていた」と明かした。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58640890Y2A220C2EN8000/
旧ソ連崩壊後の状態を知る人は少ない。ぼくも以下のきっかけがなかったら知らなかったと思う。それは仲の良いピースボートのスタッフたちが、世界で見て体験したことを聞いた場面だった。スタッフは船を借りるために船主と交渉するのだが、その船籍があるのがウクライナだったため、ウクライナの事情を知ることになった。
ロシア崩壊後、そこで起きていたのはとんでもない事態だった。それまでは国有だったものが、崩壊によって誰のものでもなくなった。すると船長自身が船主を名乗ったりして、所有を競うことになった。これは公的資産が突如、法律で言うところの「無主物(誰のものでもない物)」となり、「先占(早い者勝ち)」の対象となったのだ。
これが争いの種となり、最初に船主を名乗った元船長は殺され、バックにギャングがいるような強い者が奪うまで安定しなかった。これがエリツィン大統領時代の旧ソ連の現実だった。こんな混乱を見逃さないのが「ファンド」だ。ジョージソロスのようなファンドは「民主化」という装飾語を用いながら、ここに投資して儲けていった。これは行きすぎた資本主義の形だと思う。
しかしだからといって、ロシアという国家のウクライナ侵攻については正当化されない。
旧ソ連崩壊以降、普通に生活する人たちには関係ないところで社会が動かされ、巷は力の強い者が跋扈するようになった。従来は「社会主義」だったから、国の所有権はすべての公的資産に及び、それらを奪った者が自分の利益に変えていった。ピースボートが借りようとしていた船自体も対象となっていたのだ。公のものはすべて奪取の対象となり、力ある者が安定した力を持ち勝つのだから、ギャングのボスたちが支配者になっていった。
その人たちを総称して「オリガルヒ」と呼ぶ。それで検索して調べるとわかるように、彼らは旧ソ連のすべての資源を奪った。
ウィキペディアによれば、
「旧ソ連ガス工業省が中心となって、形成された国家コンツェルン・ガスプロムから民営化により形成されたガスプロム・グループや、旧ソ連時代の三つの石油採掘企業から構成されたルクオイル・グループなどである。
これらの類型には、旧ソ連時代からの豊富な地下資源(石油、天然ガス)に関連した大規模企業や軍産複合体などが入る。統一エネルギーシステム、ソ連冶金工業省が名称を変更したノリリスク・ニッケルもこの類型である」
という。旧ソ連の最大の資源も「オリガルヒ」のものになってしまった。
この資産奪取を一つずつ抑圧・解放していったのがプーチンだった。オリガルヒを「詐欺、脱税」などにより訴追・逮捕し、その力を弱めていった。人々がプーチンを支持しているのはこの点だ。旧ソ連崩壊によって人々が放り出されたのは、こんなギャングが跋扈する社会だった。そこで人々は究極の選択を迫られた。
「自由だが治安が悪い社会」と「治安は良いが不自由な社会」と、どちらを選択するのかということだ。人々は当然、何よりも「ギャングの好き勝手に殺し殺されない治安のある社会」を選んだ。しかしそれはロシアでの話だ。かつてソ連だった旧ソ連の地域には適用されない。それが色濃く残っているのが今回のウクライナであり、他の西側諸国と仲良くなってNATOに加盟した国々だった(ウクライナは加盟申請中)。
ウクライナのゼレンスキー大統領もオリガルヒとの関係が深い。
アメリカのバイデン大統領の息子、ハンターバイデンが天然ガス会社の取締役に就任しているのもその関係だ。
そのギャングたちが後ろ盾にしているのがNATOだ。
もっと端的に言えばアメリカだ。
ぼくは不自由な国は嫌いだが、治安の悪いギャングの国はもっと嫌いだ。ソ連のプーチンとしても、今も続いている「ドンバスの虐殺」を実行した「ネオナチ」と呼ばれる「鍵十字マーク」をつけた過激派を放置できない。しかしプーチンもまた、それらを退治するのは国際的な戦争批判を浴びるので実行できずにいる。
もし西側メディアの言うように、無関係な人々を紛争に巻き込んでいるとしたら、もちろんプーチンのしていることは不当だ。
現在、西側もロシア側も猛烈な情報戦を繰り広げている。ロシア側のプロパガンダも信用できないが、西側メディアの情報も鵜呑みにしてはならない。
「行き過ぎた資本主義」が戦争をもたらすことがあるというのが今回の教訓だ。
今の世界は敢えて言えば、
「オリガルヒが頼りにするNATOとそれを支持する西側国家」
と、
「それを抑えようとするロシア側」
とが対立する構図になっている。
それは従来「冷戦」の意味する東西対立ではなく、「行き過ぎた資本主義と、次の時代の社会」との対立に見える。
それが今、NATO軍に参加に加盟しようといるウクライナと、それを止めようとしているプーチンとの対立ではないか。「民主主義と国家主義との対立」などではなく、「カネ儲け至上主義」にまで進んでしまった「行き過ぎた資本主義」の問題ではないか。
実際、今、世界の半分の人々が保有する資産は、たった八人の大金持ちが保有する資産が半分で、残りすべての人の持つ資産と同額になっている。それをさらに増やしたい人々によって、すべての環境価値や自然資産が保有されてしまう社会になろうとしている。
少なくともロシアでは、それを解体したのがプーチンだった。「戦争反対」を叫ぶことは「現状肯定」ではないし、大統領とはいえ個人に過ぎないプーチンが良いとは思わない。
しかし、この地球をごく一部の人たちの所有物にはしたくない。旧ソ連崩壊で起きた事態は、資産すべてを「無主物」にして、新たな「無主物先占」を競う「略奪社会」そのものだった。
世界をカネで支配するのはおかしいし、人々を被害者にしかできない社会もおかしい。カネで格差を作るのではなく、人々の共感をベースとした社会に作り変えなければならない。
このウクライナの紛争を、新たな社会に向けての教訓にしなければならないと思う。
実際、中東で起きた戦争の多くは、西側諸国・企業の利権確保が目的だった。いわば中東の戦争は西側のロジックが生み出した戦争だった。今回のウクライナ戦争は、西側の資本主義に対抗するために、ロシアが起こした戦争と考えることもできる。もちろんどちらも正当化することはできない。
大事なことは、メディアが垂れ流す情報を鵜呑みにするのではなく、いかにして家族を守っていくかという視点ではないか。
私はそこに、「新たな共感を軸にした社会」を創造したい。
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