里山資本主義、パーム油。まちがったバイオマス利用
「言うは易し、実現は難し」ということが多い。「日本は森の国だ、だからバイオマスを利用しないと」と言いながら、実際は全く違っている。有名な「里山資本主義」の現場だって使ってるのは海外からの輸入材だ。「里山資本主義」の「里山」って「フィンランド」の里山のことなのか。
近年広がっているバイオマス発電だって、輸入材ばかりだ。
世界中で地球温暖化防止を謳っておきながら、インドネシアでは、炭素が蓄積した「泥炭地」をパーム油の栽培地にするために火を放ってしまっている。その結果、パーム油を使うことで排出される二酸化炭素量は、化石燃料の天然ガスを燃やすよりはるかに多くなっている。そのおかげでインドネシアの二酸化炭素排出量は、世界第三位だ。これではまるで日本の国会答弁みたいだ。嘘ばかりで、目を向けるのも嫌になる。
持続可能とはとても言えないパーム油利用の闇
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そんな中で親しい友人が地道に、本物を作っている。宮城県の端っこ、鳴子温泉の近くで。こっちが知られてほしい。本物だってやろうと思えばできるのだ。
NPOしんりん、サスティナビレッジ、ウェスタなど、役割によっていくつもの関係団体があるから複雑に聞こえるけど、やっていることは実にシンプルだ。
「山の木材を大事に端から端まで使い、それで自分たちの暮らしの多くを支える」試みだ。電気、冷暖房、そして収入までをもそれで支えようというのだ。このコラムではその場所を馴染みのある名前で、「エコラの森」と呼ぼう。
その「エコラの森」自体は、260ヘクタールの広大な森で、元々バブルで倒産した会社の持ち物だった。その会社が倒産し、そこを産業廃棄物の会社が買い取ってゴミ捨て場にしようとしていた。
しかしその下流には古くからの温泉地があり、地元の人々は困っていた。廃棄物からの汚水や毒物が流れ込んだら、温泉は台無しにされる。そこで地元の会社が買い取り、その山を管理することにした。ところが山は債権者たちによって荒らされ、売れそうな木々は保全林であろうがなかろうが構わずに盗伐されていた。
そこに私たちが関わったのだ。かつての「リゾート開発」のための宿舎が建てられていたところをリフォームして、泊まれる場所にした。そして荒らされた土地に再度植林して森を修復していった。
かつての保全林は豪雨が襲った年に崩れ落ちた。それも修復し、やっと生産できる森に戻した。年数が経ち、中には販売できるほどの木も再生してきた。
ここまでくると、普通の林業なら、はげ山にしているかもしれない。しかし「エコラの森」は私たちの大切な森だ。「未来バンク」の融資を利用し、この森を「持続可能な森」にしたいと思って融資も受けた。
林業をしていくのに一番手間がかかるのが森の「下草刈り」だ。そのためにウシを飼うことにした。そのウシは知り合いからもらってきた。ウシが逃げ出さないように柵を建てて、なんとか整備した。
ウシたちは一回目の下草刈りの後、生えてくる柔らかな草が大好物だ。
ウシたちの力はすごい。山の中まで入っては下草を食べてくれた。そして以前は栗の実はみんな熊に食べられていたが、ウシがいるようになると熊も恐れて食べに来なくなった。そして混み過ぎて細かったり、曲がったりしている木々は、毎年春に出掛けて皮を剥き、秋にその木を切り倒すようにした。いわゆる「皮むき間伐」だ。皮を剥くと木々が成長する時に、水を吸い上げることができなくなって立ち枯れする。秋には含水率が下がって軽くなった木材を麓に下ろし、間伐をするのだ。
山の手入れをしてきて、山が崩壊する原因も見えてきた。手入れのために便利な「高性能林業機械」というものがある。これを使うと少人数で効率的に作業ができるのだが、残念ながら非常に重く、数十トンもある。この重さが山を壊してしまうのだ。畑に重い機械を入れたりしないように、山だって重い機械には弱いのだ。植物を支えている土中の微生物が壊されてしまうのだから。
そこで「馬搬(ばはん)」を始めた。馬が途中の集積場まで木を運ぶのだ。そこで「フォワーダー」に乗せ換えて下のトラック置き場まで運ぶ。馬はもちろん身が軽くて山を壊すことはない。
馬もまた当たりのように下草を食べてくれる。こうして重すぎる機械に頼らず、軽い機械と他の動物たちの力で林業ができるようになった。これを「ハイブリッド林業」と呼んだ。
間伐して空いた土地には苗を植えて森を再生する。普通、伐採後に森は丸裸になるのだが、森が木を失うことは自然なことではない。そこで「択伐」と言って、「必要な木」だけを切り倒して、倒した後の土地にだけ苗を育てる形にした。しかも育ちの早い針葉樹だけでなく、時間のかかる広葉樹も混ぜて。私たちは森を守りながら森の恵みである木材を利用させてもらうのだ。
こうして「エコラの森」は一つの新たな林業の形を実現した。
エコアパート、CHPプラント、新しい林業の取り組み
しかしこれだけでは木材の利用としては十分ではない。
普通の林業から見てみよう。通常の林業では切り出した木を市場で販売する。この価格は驚くほど安い。ある市場でせっかく丹精込めて育てた樹齢400年のスギが、1立方メートル当たりわずか16万円で落札されていた。樹齢で割ると、年間わずか400円だ。それが400年の材木の価格だった。
もう競りや市場で売ることはできない。こんな安値では、山を壊さなければ林業ができないからだ。そこで木材は直に工務店に販売することにした。しかしどの木でも均質な工業製品と同じ土俵では勝てないし、埋もれてしまう。そこで「特色を示す」必要性が生じている。木材を高すぎる温度の「高温乾燥」するのではなく、精油分やリグニンが残る低温乾燥(60℃程度)をして木材の粘りなどの性質を残し、有害物質を含まない燃料で燻して、「木材の細胞が壊れないようにしながら虫がつきにくい木材にする」などをしている。そのこともあって、社名は「くりこまくんえん」という名にした。
さらに木材の木の幹の通直な部分を製材して、柱や梁などだけを取り出すだけでは、木材の三割程度しか使えない。七割が廃棄されてしまう。木は丸いので、そこから角材を取り出すと、丸みのついた四方の板が残る。これを「背板」という。これも有効利用し、やや細くなった部分などを「根太」として使った場合で、やっと木材は全体の半分ほど使われることになる。残るのは根や枝や葉、木の皮(「バーク」という)や細かい部分になる。ここまでは普通使わない。これを「エコラの森」では使おうとするのだ。
具体的には挽いた木材を磨いた屑(「プレナー屑」という)を圧力をかけて固めて「木質ペレット」にする。ペレットストーブの燃料などだ。これはペレット状に固まっているが、接着剤を使ったわけではなく、摩擦熱を受けると木材からリグニンなどの成分が溶けだして固まるのだ。また製材しても使えない木材は、薪に加工して販売する。さらに細かな枝や葉などは使いようがない。
それをさらに余すところなく使おうとするのが「エコラの森」に設置されたCHP(Combined Heat and Power=熱源供給システム)だ。
こうして「質の高いものから順に使っていくこと」を「カスケード利用」という。「カスケード」とは小さな滝のことで、連続して流れていく滝をイメージした言葉だ。ここまでするところは滅多にない。しかしそれを実践して見せることで、次の時代を生み出せるかもしれない。
それだけではない。今回のプロジェクトに伴い建てられたエコアパートは木材をふんだんに使う「板倉造り」で建てられていて、「エコラの森」に隣接している。ここにCHPからの熱が供給されている。そこでは木材から熱を生み出し、暖房するだけではなく、冷房もしている。
さらにこの高温の熱源から、「電気」をも作り出す。しかもその電気は、地域の加美町が公社化して実現した「かみでん里山公社」に売電する。東北電力にFIT(再生可能エネルギーの固定買取)で売るのではなく、エネルギーの地産地消を目指す会社に売っている。社長は無給だが加美町長が勤めている。昨年は1000万円の利益を上げ、すべて町のために使ったそうだ。
この木質バイオマスによる熱源供給システムが「ウェスタ・プロジェクト」だ。この装置はドイツ製だが、現地に出掛けて論議して自分たちで選択したものだ。バイオマスシステムは通常、性能を確保するに燃料を選ぶのだが、この装置ではほぼあらゆる木材を燃料にできる。だから枝や葉も燃料となるのだ。さらにそのCHP(熱源供給システム)の前に、荷台のみを分離して、熱風により燃料となる木材チップを乾燥させられるトラックも置いている。山でチップ化して運んでくることもできる。
しかし木材の利用で最も問題なのが「水分」、木材の含水率だ。「木」はもともと多くの水分を含んでいる。倒した時点での生木は、含水率で250%程度ある。木の乾燥重量の1.5倍も多くの水分を含んでいるのだ。これをそのまま燃やそうとすると、水分が熱を奪う。「気化熱」というものだ。水が蒸気になることで熱を使ってしまうのだ。すると発電するほどの温度にならないばかりか、熱利用すら難しくなってしまう。
そこで木材を熱利用するのであれば、木材を乾燥させる必要がある。熱利用の場合には特に重要だ。それをすでに述べたように「チップ」にして、荷台に載せたまま温風を吹き込んで乾燥させる。この温風を作り出すのもCHPプラント自体だ。排気口に接続して乾燥させる。だから山でチップ化できるなら、そのまま荷台ごと運んでくることができる。
この施設にある温風吹き出し口につなげば、チップを乾燥させて、そのまま燃焼室へと送ることもできる。つまりここは、木材のカスケード利用の最後を締めくくる、重要な施設なのである。
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