「私、研究所の者です」

自宅の工事が始まった

天然住宅の説明をしていると、まれに会場から聞かれることがある。「スタッフの人たちはどんな住宅に住んでるんですか」と。


『天然住宅です』と胸を張って答えたいところだが、いかんせん収入が少ない。それでも持ち家のあるスタッフはみんな天然住宅で、今スタッフの四分の一ぐらいがそうなっている。そうでない人は残念ながらアパート住まいなのだ。だから『給与が少ないので今のところ無理なんです』と答えるしかない。できればみんな住みたいのだ。でも限界まで利益を減らして最高品質を確保しようとするから給与が少ないのに、そう言われるとつらい。(2015年現在)二人の代表は、まだ給与を得ていない。

しかしそれでもやっと、ぼくも天然住宅仕様の住宅に住めることになった。田舎だから160坪の土地だ。そこにわずか13坪だけ使って総二階(上下同じサイズで建坪26坪)の家を建てる。

160坪の土地に13坪を使って家を建てる

(2015年現在)今建築中で、年末には入居できる予定になった。これを機会にいろいろな実験をしている。そのことを含めて書こうと思う。

固練りコンクリート

まず、天然住宅の基礎コンクリートが固練りだ。

コンクリートの寿命は、実は水とセメントの比率でほぼ決まる。セメントは乾燥して固まるイメージだが、コンクリートは水和物で、水は乾燥するのではなくコンクリートの一部になる。だから『シャブコン』と呼ばれるような水分の多いコンクリでは長持ちしない。

普通は65%も水を入れるから約50年の寿命しかないが、天然住宅では50%以下だから、寿命の理論値は300年になる。

水分が少ないので隅までさらさら入ってくれない。そのために掻き混ぜたり転圧(重さのある機械でドンドンする)したり、いろいろ大変なのだ。でも仕上がったコンクリートにはうっとりする。密に打たれたコンクリの表面で、アリが登ろうとして滑って落ちた。『虫が入らないこと』は新築のテーマだったから、なんだかうれしい。

岡山の地元の工務店『ウエイクホーム』が建ててくれているのだが、生コンを頼んだら見かけない運転手が来たそうだ。「どうしたの」と聞くと、

「私、研究所の者なんです。こんなに硬いコンクリート、どんなところに打つのか知りたくて見に来ました」

と答えたそうだ。

50%以下で打つコンクリは、それほど珍しいのだ。「もう少し頑張れるか」と聞いたら、「これ以下は無理です、ミキサー車の中で固まっちゃいますから」という返事だったという。

▲一般的な基礎コンクリート
(写真はスランプ値18㎝)
▲天然住宅の固練り基礎コンクリート
(写真はスランプ値10.5㎝)

水をさらさらにする方法

なぜこうして固練りしたコンクリを使えるかといえば、水分子の接着を和らげて、さらさらにする方法がいくつもあるからだ。よく『水クラスターを細かくして』と言われたりするが、水の話は詐欺師が多い分野なのであまり関わりたくない。我が家では『ウエイクホーム』が「抗酸化住宅」をしていて、水セメント比も下げられるというのでお願いした。掻き混ぜ・転圧はしたが、想定していたほど手間ではなかったそうだ。水をさらさらにする方法はいくつもある。騒ぐほど難しいことではないように思う。

コンクリートの寿命は、中の鉄筋が酸化してさびることで決まる。さびると体積が10倍になってコンクリを内側から割ってしまうのだ。鉄筋は酸に弱く、コンクリはアルカリ性なので相性がいい。ところが水分が多いと外の水分が鉄筋まで浸透し、さびさせてしまう。

普通の家の基礎コンクリートは水セメント比から言うと、なんと最大でも50年しか持たない。それで百年住宅? それって詐欺じゃないのと思う。

天然住宅田中優コラム「持続可能な社会を目指して」より転載しました。

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