田中優 市民活動の変遷|チェルノブイリから、ダムや紛争、3.11東日本震災原発事故、オフグリッドに至るまで

左:田中優 右:オフグリッドの生みの親 粟田隆央氏

エネルギー問題を考える

前回のつづき


原発の問題は、人体に影響する問題でもあり、エネルギー問題でもある。エネルギー問題に対する解決策も模索していかなければいけないと思っていた。
 
調べていくと、エネルギーの確保が世界の紛争の原因の一つになっていることにいきついた。
紛争地と、採掘地とパイプラインが符合するのだ。
 
石油や石炭が採れること、そのパイプラインに対する利権がその原因になっている可能性がある。
 
わざわざ遠くから運ばなくてはいけない問題なのか。そのせいで命が失われていくことはどうしても変えなくてはならなかった。

城山ダム(神奈川県相模原市)

国内では、電気を安定供給するために、各地でダムの建設が進められていた。
 
ダムは森を破壊し、人々の故郷をなくさせ、地域のつながりを分断する。電力消費の多い都会のために、消費量の少ない集落を犠牲にしてできる。
 
ダム建設を止める活動にもいくつか関係してきた。そのおかげで、今も守られている森や渓流がある。板取川のダム建設がなくなったおかげで、今もきれいな渓流が残っている。

板取川上流の風景

板取川にできるはずだった揚水発電ダムは、原子力を動かす口実のために作られたようなダムだ。
 
弱火運転ができないという特徴のある原発では、夜に電気が余ってしまう。そのときに揚水発電ダムは活躍する。
 
夜、その電気を使って、水を下流から上流に引き揚げ、昼にそれを放流して発電するのだ。
 
そのダムでは、引き揚げるのに100のエネルギーを使い、70のエネルギーをつくりだす(発電する)
 
揚水発電所というのは、夜間に余る電力を無理やり使う、原発を後付けで肯定するためにできた「捨て電所」なのである。

同じようにエコキュートも原発の夜間電力を使うための仕組みだ。夜の電気代を安くして、その電力でお湯を沸かす。
 
しかし、寒い夜にお湯をためるということは次にお湯を使う夕方までそのお湯を冷ますことになるので効率が悪い。また、電気は熱を生むのが苦手なことなどを考えると効率の悪いシステムと言わざるを得ない。
 
低周波による人体への影響も懸念される。このような負の連鎖がエネルギー周辺では起こっている。

電力のパーソナル化

このような問題の解決策となるのは、やはりローカルな活動だと思う。今や電気を生むのに、環境を破壊し、ましてや命を犠牲にする必要なんてないのだ。
 
そのためにはエネルギーが各家庭で自給できるようになればいい。その技術は今や存在する。
 
ここで考えるのは原発が必要なくなる仕組み作りだ。
 
家庭の必要とする電気はほんのわずかだ。しかし電気はグリッド(送電線網)でつながっていて、巨大発電所から下に落としていく仕組みでつながっている。
 
計算してみるとわずか8畳ほどの広さの太陽光パネルで発電した電気で我が家は自給できるはずだ。それなのに危険な原発がなければ生活できないと言われる。これを覆したかった。

2011年の東日本大震災によって福島原発事故が起き、悪夢のような事態が現実に起こってしまった。福島から東北・北海道に、関東各地へと放射能汚染が広がってしまった。
 
その時私は再婚したばかりで、新たな子宝に恵まれたいと望んでいた。しかしこの放射能の飛散だ。チェルノブイリ原発事故の後、息子は病気になった。しかもそれは原発事故のせいだとは認められない。
 
だから福島原発事故の直後から転居を考えていた。微量の放射能であっても人に影響するからだ。
 
事故直後から全国あちこちに招かれ、その中で転居先を考えていた。ある時、今の岡山の地に招かれ、その時に「こんな場所に住みたい」と言ったのが現実になった。
 
友人が古民家を見つけてくれて写真を送ってくれたのだ。縁もゆかりもない土地だが、そこに住もうと思った。

友人が見つけてくれた古民家。太陽光パネルは後から設置

後から調べてみると、地震を起こす活断層も近くにはなく、見渡すと明るい山に囲まれた平地だ。
 
最も嬉しかったのは、岡山の地は日照時間が長く、雨の降る時間が最も少ない地域だったことだ。太陽光発電で自給して暮らすには、最適な場所だと感じた。
 
しかも自給するのだとしたら最適なシステムを開発する慧通信技術工業が隣の県の神戸にある。早速アポを取って訪ねてみた。そこで代表の粟田隆央さんと意気投合し、「パーソナルエナジー」を導入し電気自給を目指すこととなった。

田中優の自宅にて。慧通信の粟田隆央さんと

粟田さんは想像以上の知識と能力、それに創造力を持つ人だった。本当に天才的な能力を持つ人がいるのだ。その粟田さんのおかげで自宅に電力自給の仕組みが入った。
 
そして粟田さんの想定していた通り、電気は各人で自給していくという「電力のパーソナル化」が実現した。
 
しかも彼がつくるシステムは電気に弱い人であっても使えるタフさと自律的な仕組みを持っている。そのおかげで設置してから12年、大きなトラブルもなく動いている。

自宅の太陽熱温水器

送電線網につながらずに暮らすことをオフグリッドというが、まさにそれを目指していた私にとって、最適な仕組みだった。
 
こうして送電線網を離れ、井戸水を利用し水道管と離れ、熱源もペレットストーブでバイオマスエネルギーを中心とし、わずかなプロパンガスとクルマのガソリンに頼るのみである。

緊急時の給電に、トヨタのシエンタを導入

こうして我が家のオフグリッド化はほぼ成功した。今は以前には電気が足りなくなって困った事態に対しても、緊急時にハイブリッド車から電気を供給できる仕組みを入れようとしている。(2024年4月導入した)
 
そうなれば雨が続いてもクルマから最低量は供給できる。わずか1500ワットだが、省エネ製品を利用している我が家では、もう困ることはないだろう。安心で、電力会社に依存しない暮らしが実現できたのだ。

森を壊さない家づくり

原発の問題から始まり、おカネやエネルギー、健康や環境問題など様々な問題を知り、それぞれにそれを解決する仕組みがないか?と考え、実際に活動してきた。
 
社会に新たな視点で仕組みをつくることで、またリスクを冒して自ら実践することで、希望を示したいと思って続けてきた。天然住宅の取り組みもそのうちの一つだ。
 
原発の大きな問題の一つは人体への悪影響だ。一番身近な危険は、放射能と被ばくの問題だ。自身や家族への影響をやはり一番に感じてほしい現実だった。
 
住宅についての問題でもやはり自身や家族の健康を考えてほしいと思う。

熱帯林木材を伐採して輸入し、海外の森林を破壊しながら、人体に悪影響のある合板や防腐処理された木材が多く利用されていること。
 
そして、そのおかげで国産材の木材を使われず、衰退していくような事態は変えていかなくてはならないものだった。
 
もし国産の木材の良さに気づいて、それを利用するようになれば合板や接着剤を利用せずにすみ、輸入材には必ず義務付けられる検疫などのために使われる防腐・防虫剤を使わずにすむ。そうすれば「化学物質過敏症」のような事態も生まなくてすむようになる。
 
日本は日本に十分にある木材を利用して暮らしていくことになれば、山は私たちに十分な資源を届けてくれるし、それで十分に生きていくことができる。「一石何鳥」にもなるのだ。

それには何より森に入り森を体感することが大切だと思い、健康になれる家づくりに加えて、森の保全を欲張って実現できる「天然住宅」を立ち上げたいと思った。
 
森のことは調べれば調べるほど人間の健康にとっての利益が多い。
 
そう、ヒトは森と共に生まれ森と共生して存在を続けてきたのだ。だから森のことを学ぶことはヒトの存立基盤を知ることであり、どう生きていくべきかの指針を示すものでもあるだろう。
 
森と木材を知ることは自分を知ることでもある。さらに言えば人が病に対抗して生きていくにも大切な存在だ。

森以上に古くから生きている菌類やシアノバクテリアたちは私たちを生かし続けてくれている。木は菌類と共生し、森をつくっている。その共生の輪の中に人々の暮らしもあるべきだ。
 
その中に天然住宅の取り組みがある。それを知り広げていくために国産木材を利用して暮らすあり方は、とても大切なことだと思うのだ。

海外の森林伐採の問題からはじまって、国産材が使われていない現状を知った。
 
また古くから建築に使われてきた自然素材の代わりに、新建材が使われ、それらが生み出すシックハウスや化学物質過敏症などの問題があることも知った。
 
建築をめぐる問題は多岐にわたり、現在進行中だ。
 
だからこそ、今天然住宅の取り組みを続けている。この活動がもっと広がってくといい。社会が少しでも良い方向に向かうように仕組みを考え、実践を続けていくつもりだ。
 

天然住宅田中優コラム「持続可能な社会を目指して」より転載しました。

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