カネに頼らない暮らしへ

大きくなる貧困問題

 若い頃、とても貧しい時期があった。食べるものがなくて、仲間のうちで仕事に出かけたヤツの家に行き、そいつのカネで食べていた時期がある。毎日同じ道端に集まり、そのときに居ないヤツの家に行くのだ。

 ぼく自身は当時腰が痛くて働けず、動くことも困難だった。今にして思えば、過酷すぎるバイトが原因で、椎間板ヘルニアになっていたのだ。当時のぼくは自分の根性のなさのせいだと思っていた。借りているアパートも安普請、その後定職に就くまでそれが続いた。自費で夜間大学を卒業したが、その頃の貧しさは今の貧しさとどこが違っている。それは何なのだろうか。

 今の貧富の格差の方がはるかに深刻で、子どもでは6人に1人が貧困世帯、特に母子世帯では平均所得以下の世帯が95.9%に達し、母子世帯の54.6%が貧困世帯だ。



 深刻な状態が続いてしまう原因に、パート、アルバイト、派遣などの非正規労働者の割合が4割近くになっていること、しかも非正規労働者の収入は正規労働者の48%、すなわち半分以下でしかないことがある。



 そして今、労働者派遣法の改悪が進められていて、(2015年時点)間もなく成立する法案では、期待していた3年後の正規就労は認めなくてよい抜け道が作られる。



 日本の最低賃金法の規制では、国連すら「人間の生存基準を下回る水準」だと述べている。このレベルでは、正社員だって離職すれば簡単に生活破綻に陥る。なんと崖っぷちの仕組みだろうか。大卒でも就職できず、奨学金ローンの返済で生活破綻するほどなのだ。


支出を見直す

 そこで調べてみた。一体何にカネが必要になるのか。家計支出の中で多い方から順にみると、

食費
交通・通信費
教養娯楽費
光熱水費

住宅費
保険医療費
その他

となっている。

 
 その中で切り詰めることのできる費用は「メタボ家計」と「貧困家庭」とでは大きく異なる。比較的裕福なメタボ家計では、節約できるのは最大から「通信費、交通費、被服費、交際費、日用品費、生命保険料、光熱水費」の順になっている。つまり携帯やインターネット、生命保険料などの重複を見直し、過剰な支出となっていた「交通費、被服費、交際費、日用品費、食費」などを見直すことで支出を減らせるのだ。

 

 一方の貧困世帯では最初からそんな過剰な支出はない。日本全体では所得が減ったこの一年間に、「その他支出、住居費、教養娯楽費、交通通信費、家具家庭用品費」が減っていて、食費は逆にわずかに増えている。つまり全体としては節約することで所得減少に対応したということになる。貧困世帯ではおそらく、節約以外に減らせるものがほとんどないのだろう。

 

 特に収入が減っても節約が困難な支出がある。それが「食費、光熱水費、保険医療費」だ。しかもそれらの支出は上昇傾向にある。対策は機能の重複が起こりやすい「携帯、インターネット、生命保険」などを合理化し、その上で節約困難な「食費、住宅費、光熱水費、保険医療費」を安くする方法を考えるしかない。

格差をつくる税逃れ


 もともとなぜこれほどまで貧しくなったかといえば、貧富の格差が広がっているためだ。貧富の格差を示す指数に「ジニ指数」というものがあるが、それを見ると日本は貧富の格差が広がり続けており、他国も上がっているが、日本の格差は先進国でアメリカに続く第二位となっている。

 ではその格差はどのようにして作られていくのか。税逃れだ。ここで知っておいてほしいのが「タックスヘイブン(税の逃避地)」の存在だ。そこに会社を設立した形だけ採っておいて、そこに資産を入れると税逃れをすることができる。会社を作ると言っても実際には何もせず、紙の上に存在するだけでいい。これをペーパーカンパニーと呼ぶが、それだけで資産を隠すことができる。

 日本の東証上場会社、上位50社のうちの45社がタックスヘイブンにペーパーカンパニーを持っている。その規模は、日本の大企業と富裕層が隠した投資残高は55兆円を超える。これは日本の一般会計の実質予算とほぼ同額だ。こうして大企業と富裕層は納税せず、その分を一般家庭から奪うために著しい重税となっているのだ。

 この傾向は残念ながら毎年伸びている。今後も情報的には丸裸の一般の豊かでない人たちから取られるだろう。つまり今後も貧富の格差はさらに深刻になるのだ。ところがこんなときに広がるのが「抜け駆け」だ。自分だけ豊かになればでいいと考えるのだ。そして人々はあり得ない『アメリカンドリーム』のようなものをアテにして、『クモの糸』さながらにお互いに奪い合うことになるのだ。

将来支出を減らすという資産


 こんな暮らしをしたくないと思ったときに、もう一つの方法がある。おカネに頼らない生き方だ。もちろん100%おカネを使わない暮らしなどできない。しかしおカネに頼る部分の比率を下げていくことは可能なのだ。

 そのときできることは「所得が減ったとしても節約が困難な支出」である「食費、住宅費、光熱水費、保険医療費」を自給することだ。

 私たちの資産は持ちものだけではない。将来の支出を減らせるものもまた資産だ。
 持ち家で家賃支出が要らない、光熱水を自給する、ガス代を減らすために太陽温水器を導入する、窓の断熱を高めて光熱費を節約する、雨水や地下水を利用するなどして、収入が減ったとしても支払う必要のあるコストを減らすのはどうだろうか。


 こう考えるのには理由がある。ぼくが若い頃の貧困と、今の時点の貧困には大きな違いがあるからだ。何よりも今の貧困には出口がない。しかも貧困をバッシングするだかりで、格差を是正しようと考える人が少ない。今の貧困はそうなるように社会の構造から仕組まれている。ならばもっと根本から変えられないか。

 それがカネに頼らない暮らしなのだ。

 面白いことに高福祉で教育費もかからない北欧に行くと、人々は老後の貯蓄も教育費負担もないからおカネは社会参加に使う。いやいや払うのではなく、堂々と胸を張って払うのだ。そんな社会になれるといい。

 もう少しカネに依存しなくていい仕組みを作ろう。

※2015年発行の無料メルマガより転載しました