ぼくがもの選びで大事にしていること
「家具選び」というお題をもらった。何を買うにしても同じだが、「自分は何に金を払っているのか」という視点が大事なのではないかと思う。
少なくともぼくはそうだ。まず誰が何のために作ったのかを考えて、次に機能、そしてデザイン性とくる。
デザインで選びたいときもあるが、ぐっと抑えて作った素材や思いを考える。
「フェアトレード」と同じで、ただ格好で買うというのではなく、それを持つ社会性というか社会的価値を考えてしまう。
ぼくは「ピープルツリー」のような「フェアトレード(公平な貿易)」の考え方が好きだ。そう思いネットで調べていたら、ピープルツリーのインタビューにこういう記述を見つけた。
「30年前はFAXや手紙で受発注する時代だったので、最初は大変な苦労がありました。FAXも相手先のオフィスになく、近くのホテルに送信し、相手がそこに受け取りに行くとか」
・・・と。
ぼくが「ピープルツリー」に関わり始めたのはまさしくこの30年前だ。「フェアトレード」もまだ知られていなくて、貧しい国との貿易格差や構造的貧困問題についても知られていなかった。ぼくはそこに招かれ、構造的な貧困問題について講義した。それは天然住宅を設立する少し前のことである。
住宅にもファアトレードの考え方を
「住宅」を考える時、もちろん「フェアトレード」のことが頭に浮かんだ。林業に関わっている人たちは、労働災害で圧倒的一位なのに収入が少なく、圧倒的な負担を強いられている。だから住宅にも同様に「公平性」を入れた建て方、もっと遡って森づくりにまで思いを寄せたものにしたいと思った。
そこで
- 「森を守る人たちへの十分な見返り」
- 「住む人の健康と同時に成り立たせる・安全」
- 「長持ちする住宅」
の三つを成り立たせる家づくりをしようと考えた。
森づくりはどうしたらできるのかと思ってしまうが、簡単に言うと、森林の現場で働く「きこり」の人たちに聞いてみるのが一番いい。その三つを成り立たせるものとして「天然住宅」は設立された。
自邸の木の伐採体験がもたらすこと
都会に住んでいて森を知らない環境意識だけの人に聞くと「木を切ると木が泣いている」というようなセンチメンタルな嘆きを聞くこともあるが、もちろん林業者は必要があれば木を伐るし、それを避けることなどできない。
天然住宅と共に活動している「くりこまくんえん(以下、KURIMOKU)」のきこり達はさかんに、「建てる家のための木を伐るので、山に来てほしい」という。木を伐る体験をしてほしいと。
そうしたら建ててわずか30年しか経たない家を壊すことはしなくなるだろう。できれば数世代に渡って住み継ぐ家にしてほしいのだ。
その第一歩が「伐採体験」だ。
続いて製材所見学。
木っ端の端材まで使っていく(残りの材を家具やチップにするばかりでなく、磨いて粉にしたプレナー屑まで木質燃料のペレットにしている。そこでは木の葉ですら燃料として生かせる装置を輸入して使っている)様子を見てもらう。
伐採の時にはその木に「お神酒」を立て、「大切に使わせていただきます」と手を合わせる。ある時、森で伐採する良材を得るために、支障のある手前の木を伐り倒したら、見ていた子どもが泣いたそうだ。
「この木はどうなるの」
「森に捨てていくよ」
「かわいそう」と。
現場で作業する「木こり」の人たちは、だからその木を端から端まで使おうとする。
「KURIMOKU」には家具生産のための工場も併設している。そこでは障害を持つ人たちが働いている。彼らは人の役に立つことを楽しみにしている。
それはまさに国内版の「フェアトレード」だ。だからできるだけ自分の目で見ることのできるところから買いたいのだ。
天然住宅田中優コラム「持続可能な社会を目指して」より転載しました。
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