「くりこまくんえん」の製材と林業
何と言っても「くりこまくんえん」の大場さんの話が欠かせない。大場さんは大変な状況の中から復活して、今やきこり業から乾燥・製材までやっている。大場さんは信頼できる人だし、何も言わないままで次には木材を利用するエネルギー事業まで始めている。自分のことよりも従業員や森のため、未来の子どもたちのために奮闘努力している人だ。
天然住宅では関東圏まではここの木材を使っている。すでに話しているが、森の中の下草刈りにはウシを使い、木材を搬出するためにはウマを使っている。だから重たい重機を山に入れないですむので、山は崩れにくい。もちろん山の時点で薬品は使わないし、その木材を乾燥させるときにも薬品のプールに漬けたりしない。
その代わりに予備乾燥として木材を「くんえん」し、木材の性質を活かした製材をしてくれている。もちろん普通の人工乾燥で120度で乾燥させることはせず、木材の性質を壊さない60℃程度での乾燥をしてくれている。山に動物を放った時は、同業者から「バカ扱い」されたという。そりゃそうだ。林業のためにウシやウマを放つなんて、まともに考えたらバカだろう(実はこのウシたちを連れてきたのはぼく自身だったのだが)。
カーボン・ニュートラル
しかしそれだけではないのだ。ここでさらにやってくれていることの片鱗だけでも紹介したい。それは地球温暖化の原因になっている二酸化炭素を排出しない試みだ。木材は燃やせば必ず二酸化炭素になる。だから燃やす点だけを見ると問題に思えるが、再度植林したらどうだろうか。その苗が育つときに周囲の二酸化炭素を吸い込んで酸素を出してくれるのだ。
だから木材を使うことは二酸化炭素的には中立(増やしも減らしもしない)と考えられている。これを「カーボン・ニュートラル」と言い、木材のような自然素材を使うことが良いとされているのだ。ところが海外には日本のような植林システムが成り立っていないことが多い。実は自然林を切りっぱなしにしていることが多いのだ。
もちろん大場さんのところでは再植林を必ずする。もともと広い森ではないので、植林して森を増やすことが大事なのだ。
それだけではない。森の中を走り回るトラックもフォワーダーもユンボも、近くにいるとてんぷらの匂いがする。軽油の臭さではなくてんぷら臭がするのだ。言われれば気づく通り、ここでの燃料には廃食用油を改質して作った「バイオディーゼル」を使っているのだ。廃食用油と言う通り、捨てられる食用油から作っているので排出した二酸化炭素はすでに捨てられた時点でカウントされている。だからこの燃料は二酸化炭素の排出量はゼロとなるのだ。
カーボンニュートラルな家造り
それだけではない。木材を乾燥させるときの燃料にも木材かすや破片を使い、その機械を動かすための電気もまたバイオディーゼルから発電した電気を使っている。施設内にはペレットストーブが並んでいるが、その燃料となる木質ペレット自体も工場内で作っている。
そのペレッターの機械の刃の部分が高い。そこで大場さんのところでは、ペレットを流す部分は自分たちで木材を使って作っている。ぼくはそれを見て「すごい!」と思うのだが、大場さんは「カネがなくて…」と恥ずかしそうにしている。
だからここの木材なら、地球温暖化を進行させてしまうと思い悩むことはない。ほとんど二酸化炭素を排出していないからだ。気にかかるようなら植林ツアーに参加してほしい。家を建てて排出する以上の二酸化炭素を吸収しているから、その手伝いもできるからだ。カーボンニュートラルな家造りしているから、安心してほしい。
そして、できれば建てたら長く住んでほしい。長く住めば住むほど、二酸化炭素を固定できるのだから。
2018年9月発行の天然住宅田中優コラム「持続可能な社会を目指して」より転載しました。
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