山仕事のイノベーション

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300年後の山づくり

 
「仲間の同業者に話すと、ぼくなんかバカ扱いですよ。いきなり笑われて。
そんなのうまくいくわけないだろって」。

 

 ぼくの友人のくりこま木材の大場さんの言葉だ。

 
ぼくは森を守る方法として、最終商品である住宅会社を非営利で経営している。最近はさらに、森の再生のための「育林」まで関わっている。日本の育林費はドイツの倍、アメリカの約10倍で、このままでは競争に勝てるわけがない。そこで、コストを削減できる方法を調べ、考え、いくつかの方法を見出した。ところがそのアイデアは普通に考えたら奇想天外なもので、それを実行している大場さんは周囲からバカ扱いされる状況なのだ。

「でも、実際にこうした方法でやるからコストが下げられるんですよ。
優さんの話を聞いた時に、ぼくだって信じられなかった。

でも優さんは『大場さんは自分の目で見ないと絶対信じないだろうから、
とにかく一緒に来なさい』と言うでしょ? 

それで見に行ったら信じられないようなことが起こっている。
今は信じていますよ、この方法でなければ絶対将来の森は守れないって」。

 

雪が降り始める頃、大場さんに連れられて山の中に入った。
資金がないからキャタピラの車が入れる道も途中までしかなく、そこからは藪を漕ぎながら登って行った。

キャタピラ車

 

 道なき道を行く

冬の始まりの山を歩いてみると、スギやヒノキなどの針葉樹はとても少ない。
カラマツ以外の針葉樹は緑のままだから、色で簡単に見分けることができるのだ。
途中にブナの木があり、そこにはたくさんのクマのつめ跡が残っている。噛み跡もある。ごく新しいフンもあり、冬眠前のクマはまだこの森のどこかにいる。
でもクマが住んでいられる森であることが、怖がるより先にうれしい。

 

 この山を、広葉樹に針葉樹が混じり込んだ混交林にしたいのだ。いや正確に言うなら、ほとんどが元々の広葉樹のある森の一部に、スギやヒノキが混じり込む森だ。しかし残念ながら今から始めても、我々が生きている内には見ることができない。

 

「どうやって次の世代の人に伝えられるかが問題なんですよ。
次の世代の人たちが理解してくれなかったら、永遠にぼくらの作りたい森は作れない」。

 

尾根を走破して林道に出て、そこから再度キャタピラ車に乗って奥に入る。

 

キャタピラ車で行く道?

 

かつてリゾート開発に失敗し、債権者に盗伐された森だ。その後は産業廃棄物の業者に買われそうになっていた。ゴミで埋めさせないために買い取ったこの山は、260ヘクタールの広さがある。一番奥の森はすべて切り払われている。債権者が盗伐してしまったからだ。商品価値の低いアカマツは残されていたが、マツクイムシの被害を広げないためにこちらで伐採してた。 

 
 それで今やはげ山だ。植林は極めて困難。びっしりとクマザサが広がり、いくら刈り取って植林したとしても、苗の成長はクマザサの成長に勝てない。 

奥のはげ山

 

一部の広葉樹はそのクマザサの高さを上回って伸びている。ここは長年かけて、次の中木が育ってクマザサに勝つのを待ち、その次に経済価値のある樹種を植えるしかないのかもしれない。そうすると我々の目指す森になるには、さらに半世紀を要することになる。山全体を改善していくとなれば300年の月日が必要だ。暗澹とした気持になりながら森を下り始めた。

 

山づくりの酪農

 

その途中にぼくらの実験場がある。育林コストの中で最大のものが下草刈りだ。
 

除草剤は使わないので、クズのようなつる植物がスギの頂点まで覆ってしまう。
せっかく刈った道が、一週間もすると見えなくなる。現場の人たちも、夏場になると徒労感に襲われる。そこにぼくらは秘密兵器を入れた。それがだ。

かわいい牛たち

 

牛たちは下草をせっせと食べてくれる。大好物がクマザサで、嫌いなのがスギとヒノキだ。ぼくがここに来るのは半年ぶりだ。前回はほくの赤ん坊のような仔牛だった。ぼくはこの、キャタピラ車の騒音が牛たちを怯えさせるのではないかと心配していた。ところが逆で、牛たちは人懐こく、エンジンの騒音を聞きつけて坂を上ってくるのだ。もう仔牛ではなく、ぼくの胸の高さまで大き<くなっている。そのきれいな毛並みをなでてみる。

「優さん、こっち見てくださいよ」

そう言われて見た先には、それまで見たことのない風景が広がっていた。スギの苗だけがきれいに並んでいて、他の草は一本もない風景だった。スギの苗を見出すのは普通は困難だ。クマザサやススキの影に隠れて探すのに一苦労する。しかし見事なほど他の草がなくなっていたのだ。

 

以前は柵の左右は同じに見えた
元クマザサとススキに覆われていた植林地

 

「牛は抜群です、これで山を復活できますよ。

優さんから言われた時には信じられなかったけれど、本当にきれいになりました。

少し前までは牛たちが好き嫌いしてきれいに食べてくれなかったんだけど、『少し飢えさせるといい』とアミタさん(株式会社アミタ※)からアドバイス受けて、おかげできれいに食べてくれるようになりました。100頭ぐらいいたらきれいにできるんじゃないかと思うんです」。

 

 

牛は一頭で2ヘクタールの下草を食べるそうだから、この森全体で130頭いたらきれいにできるかもしれない。 もしかしたら一番奥のはげ山も。

 

それよりうれしかったのは、山の班の人たちが喜んでくれていたことだ。厄介なクマザサを食べてもらえるので、牛たちを「ベイビーちゃん」と呼んでかわいがっている。

牛たちは栗林にかかった傾斜地に放っているのだが、今年はクマがクリを食べに来なかったそうだ。クマは食べるときに枝を自分に引きつけるので、枝はめちゃくちゃに折られてしまう。それが心配なくなれば、木材としてクリの木を育てることもできそうだ。

 

牛が順調に下草を食べてくれれば、下草刈りのコストは五分の一に下がる

今までの林業では、コストの点からスギ・ヒノキの純林でなければ無理だと言われ、下草刈りは事実上、コストの点から実施できなかった。しかし山仕事で暮らすことができなければ、山がほとんどを占める地方では生活が成り立たない。コストを下げられる山仕事のイノベーションが必要だ。すでに最終商品である住宅やエネルギー材利用も実行し、それなりに成功し始めた。その次に始めるのが、この「山仕事のイノベーション」だ。

 

山はもともと生きものたちが共に暮らしながら作り上げた環境だ。生きものたちの力を利用しなければ、結局化石エネルギーに頼ることになる。

その新たな仕組みづくりは、かわいい牛たちの力に始まった。

 
※アミタホールディングス株式会社 
ミッションは「持続可能社会の実現」。地下資源ではなく地上資源である使用後の資源を循環させる仕組みを作るところに始まった上場会社。「食・人・企業・エネルギー・資源・地域・森」をキーワードに事業を構築している。そこで行われ山地酪農の仕組みに学び、仔牛も分けていただいた。



2011.12.16発行
田中優有料・活動支援版メルマガ第1号を転載

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