エネルギー消費を激増させるのが「エネルギー転換部門」という矛盾

CO2を最大に放出するエネルギー転換部門とは

家庭でできる温暖化防止というと、何を思い浮かべるだろうか。
ガソリン、石油(灯油)、ガスの消費だろうか。

それと違って「電気」は直接その場で消費されるものではないが、家庭内から間接的に排出されるCO2を含めれば最大に放出しているのは「電気」だ。
「電気」自体がエネルギーだが、「エネルギー転換部門」というものが排出している。


「エネルギー転換部門」とは聞きなれない言葉だが、石油などのエネルギーを、より使いやすい「電気」などに転換する役割のことをいう。


この「最終エネルギー消費」を「エネルギー転換、産業、運輸、業務、その他家庭部門」に配分すると、「エネルギー転換部門」が一番、CO2排出が多いのだ。


世界では総排出量の約3/4を占めるといわれ、日本でも「発電」の「エネルギー転換」だけで全体の約4割以上になる。「転換」だけで約4割が消費され、送電ロスと合わせて63%が消えていく。
だから私は温暖化問題を語るときに、「電気」自体を問題にするのだ。

それ以外にも大きな消費がある。図で示してみよう。

図1-1

まず、この円の大きさがたんだん大きくなる円グラフ(図1-1)が、「何にエネルギーが使われたか」を示す「家庭におけるエネルギー源の推移」のグラフだ。


 
1965年から2011年までの約50年間で、エネルギー消費量は約2.2倍に増えた。特に増えたのは「動力・照明」で、主に電気によって賄われる消費だ。「暖房・給湯・厨房」の比率は下がっているが、「暖房・給湯」部分に電気が使われ始めた

図1-2

(図1-2)に見る「どの種類のエネルギーを使ったか」は大きく変わった。かつて大きかった「石炭」はほぼ姿を消し、次いで「灯油」が出ては消え、最終的にはそれらに代わって「電気」の賄う部分が全体の半分以上を占めるようになった。 


 
電気は「発電」という「転換時」にエネルギー量の半分以上を失い、送電でも大きく減らす
そのため、エネルギー消費量は増加したが、「暖房や冷房、給湯」が改善されるということもなかった。エネルギー転換部門を含めて、エネルギー全体消費量の伸びの原因は「電気を使うようにした」ことにある。


 
そこで「日本の部門別CO2排出量の推移」のグラフ(図1-3)を見てほしい。

図1-3

圧倒的に伸びたのが「エネルギー転換部門」、次の紫が「産業」、次の緑は「運輸」で、続いて「業務その他」部門、その下にやっと「家庭」が出てくる。その下の「工業プロセス及び製品の使用」「廃棄物」「その他(農業・間接CO2)」はほとんど関係しない。この増加の原因は明らかだ。


 
エネルギーを石炭などの直接消費から「エネルギーを転換させた電気」の消費を増やしてしまったことだ。「家庭消費」自体の問題ではない。「電気消費」を増やしたことが問題なのだ。生活実感は改善していない。改善するためには「電気」に頼ること自体をなるべくやめて、家を「断熱」して暮らしたほうが良い。
 
そこで熱量(ジュール)から考えてみよう。単位は「1メガジュールあたり」という熱量で、ちょうど240リットルの水の入ったお風呂を1℃上げるのに必要な熱量だ。グラフで比較すると(図1-4)のようになる。

図1-4

一見して明らかなように、同じ熱を作るだけなのに、「電気」だけが著しく低い。ただし「電気」に余分な排出(エネルギー転換部門や送電ロスなど)のない質の高いエネルギーを使用し、かつ電気エネルギーでポンプを動かす「ヒートポンプ」を利用すれば他のエネルギーと遜色ない熱が得られる。
 
言い換えれば、「ヒートポンプを利用しない限り、熱に電気は使わない」が正しいことになる。さてこのヒートポンプの使い方について、次の話で見てみよう。

「熱」こそ賢く使わないと

日本のエネルギー効率が悪化したのは、「電気」の消費ばかり増えた上に、その電気を作る発電所などの「エネルギー転換部門」の効率は悪かったためだ。だから実質のジュール熱(家庭内での実質的な熱量)は増えないのに、二酸化炭素排出量ばかりが増えたのだ。特に東日本大震災で福島原発事故が起こり、原発が使えなくなって「火力発電所」中心に稼働させたので二酸化炭素の排出量が増えた。
 
「電気消費」が増えたのは、深夜電力だけ安くする仕組みのせいでもある。「おトクな深夜電力」を利用した「エコキュート」を使った「オール電化」を進めたため、利便性は変わらないのに、倍以上のエネルギー消費量となってしまった。
 
なぜ深夜電力が安かったのか。それはもともと深夜の電気消費は少なく、本来なら発電しないほうがいい。ところが安全性の問題から「弱火にできない」原子力発電ばかり増やしてしまっていたため、深夜の電気が余ってしまったのだ。そこで深夜の電気を安くして使わせようとしたのだ。


 
他に「電力を使って水を上池に貯めておいて、翌日の日中に下池に落として使う揚水発電ダム」が作られた。これは実際には蓄電の代わりに上池に水を持ち上げておくだけの蓄電装置(バッテリー)だ。効率は70%程度で、3割は電気を捨ててしまう。「発電」所ではなく「蓄電所」、実際の数値では3割の「捨て電」所なのだ。
 
そのために深夜の電気を無駄に使わせようとしたのが「深夜電力の割引制度」だ。捨てる電気を使わせようという仕組みだ。だから原子力が予想以上に嫌われて再稼働できなくなり、原発を止めざるを得なくなった今、東北電力は、深夜の割引制度を止めてしまった。


 
そうなるとかつて釣られてオール電化にした世帯はいい面の皮だ。どんどんと電気料金が上がり続けるのだから。


 
特に東北・北海道は困る事情がある。ヒートポンプによって内側の冷熱を捨て、外の熱を集めて使うのだが、その「深夜の外気温」が低すぎて内側の冷熱を捨てると室外機が凍ってしまうのだ。ヒートポンプで冷熱を捨てると、最初から外気温は氷点下だから、室外機が氷に覆われてしまう。それをヒーターで溶かすために、ヒートポンプは機能せず、電気消費量が莫大になる。
 
しかもエコキュートでは「深夜電力を使って」熱を汲み取る仕組みなのだから、外気温が低い深夜の冷たい水を温めなければならない。「1メガジュール」とは、240リットルのお風呂水を1℃上げるのに必要な熱量でしかない。ところが深夜の水温は冷たく、外気温も低い。そのダブルパンチによって、さらに効率が下がる。
 
ここで熱量の比較を再掲しよう。同じ1メガジュールの熱を作り出すのに、ヒートポンプが使えないとひどく悪化するのだ(図1-4)。

図1-4


図1-4

同じ熱量50.2MJを得るのに、LPG なら1kgだが、電気では約14kWhも使わなければならない。この量は我が家で言えば「3~4日分の電気消費量」だ。これではオフグリッドで「オール電化生活」は続けられない。
 
この過ちを正すには、「オール電化」に見られたようなエネルギー源をガスや石油から電気に変えてしまったことを悔いて、元に戻せばいい。しかしただ戻すのも芸がない。貯湯槽など使えるものは使って、効率が良くなるように使ったほうが良い。そのために外気温の高い昼間の水を使って、さらに最も暖かくなる日中の日差しを利用してヒートポンプを駆動する方法がある。「エコワンソーラー」は日中の太陽光発電が発電している時間帯の外気温の高さを使ってヒートポンプを駆動させる。

エコワンソーラーウェブサイトより

そもそも「リンナイのエコワン」と「エコワンソーラー」は全く違う装置だ。「エコワン」はガスを効率よく使って給湯する装置だが、「エコワンソーラー」は太陽光発電で作った電気をヒートポンプとして活用する。「慧通信技術工業の粟田さん」の考えた仕組みでは、「エコキュート」のように深夜の外気温や深夜の水でもなく、外気温が一番高い時間帯の水を65℃まで炊く。翌夕まで待って熱湯を冷めさせるような使い方はしない。その日の昼間に作った温水を利用するのだ。
 
だから慧通信技術工業の粟田さんが協力して作った「エコワンソーラー」は、ただのガス温水器の「エコワン」とは全く違う仕組みなのだ。


 
気をつけて欲しいのは「お湯を追い炊きしよう」とすると、給湯器の「エコワン」で沸かす仕組みになり、ガスを消費する。だから追い炊きを利用せず、太陽光のヒートポンプで沸かしたお湯を利用し、お湯を使うとすぐに約一時間で再度65℃に沸かす。このガス消費をうまく避けると、実質ゼロ円の太陽光発電の発電だけで暮らせる。
 
そして神戸の震災を経験した粟田さんらしく、非常時の最低限の電気を賄えるようにと、仕組みを備えた。「風呂、トイレ、冷蔵庫」のための電気の供給だ。その3つだけは賄えるようにバッテリーも併設している。わずか1kWhだけだが、それでも災害によるインフラ途絶の復旧までの時間に応えられる。
 
さらにすごいのは、「誘導電流」と呼ばれるモーターに瞬間的に流れる10倍近い電気消費に耐えられる点だ。(家電のスイッチをONにした際に一瞬大きい電流が流れるものがあり、それがインバーターなどを壊してしまうことがあります)


 
風呂に入れて冷蔵庫も動いていてトイレも流せれば、とりあえず生きていける。それを実現した仕組みなのだ(図2-1)。ドライヤーのような電力消費の大きい「熱」を大量に生み出すような家電を使わなければ、非常時も乗り切れるのだ。

図2-1

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天然住宅田中優コラムより

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