木材の「ウイルス不活化」1~3

木材の「ウイルス不活化」① 

相変わらずテレビでは「新型コロナウイルス」感染の話ばかりしている。「三密」を避けるだとかで「自粛」「社会的距離」の話ばかりしている。でもこんな身動きできない息苦しい社会をみんな望んでいるんだろうか。

 調べてみると死亡者の中央値は八十歳代で、既往症のない人の被害はー%もない。しかも対策としての薬理もいくつか見つかっている。なのに若い人たちをステイホームに閉じ込めていていいんだろうか。隔離すべきなのは大多数ではなく、少数者の方で良いのではないか。

 それともう一つ、個人の免疫力の向上と共に、ウイルスを不活化させる方法はないのだろうか。相手が雑菌なら「殺菌」だが、相手がウイルスだと生命体かどうか怪しいので「不活化」という。

 それが住んでいるだけで自動的にウイルスを不活化できたらすばらしい。できるのか。

不思議なことにそれができるのだ。以下のグラフを見て欲しい。
このグラフは大きいほど「抗ウイルス活性値」が高い、要は菌で言えば「殺菌力」が高いのだ。

スギよりヒノキの方が高いようだが、スギで十分だ。ヒノキの成分だと目が覚める効果があって寝室には向かないかもしれないので。

 これは木材の中の精油分の効果だろうから、高温乾燥した木材にそれだけの効果があるかどうかわからない。要は天然住宅で使っているような「低温乾燥材」であれば文句なしに抗ウイルス作用があるのだ。

 ただ何年続くのかはわからない。我が家は土台にヒバを使って建てているが、「蚊殺しの木」と呼ばれる通り室内に蚊が入ってこない。「蚊取り線香いらず」なのだ。蚊取り線香を使うと喉が痛くなるので使いたくない。いつまで「蚊殺し効果」が続くのかはとても気になるのだ。今のところ五年になるが、大丈夫だ。「ヒバオイル」も売っているので、効果が落ちてきたら壁に塗ろうと思っている。

  それで蚊だけでなくて、 ウイルスから守られるなんて、とてもいい話だと思わないか。

木材の「ウイルス不活化」② ~「燻煙木材」の効果~

 木材の「ウイルス不活化」①で述べたのは木材の成分でウイルスを「不活化」できるという話だった。でも天然住宅の使っている木材はさらに「燻煙」してある。煙を当てて燻してあるのだ。この燻したことの効果もある。燻すことで害虫が寄らなくなるだけでなく、抗ウイルス効果もあるのだ。

それがただ普通に家を建てただけのことで得られるのはとても得だと思う。それを狙ったわけではなく、昔からの技術に従っただけなのだが。

 もう一つ狙ってやっていることに、透過性の高い素材を選んで使っていることがある。「適気密」と呼んでいたが、今よりも気密を上げていきたいと考えている。そうすることにより、冬場に室内温度をより保ちやすくすることができる。もちろんぼく自身も天然住宅仕様の家に住んでいて温かいが、暖房の効きがよくなれば、より暮らしやすいと思う。

 何とか暖房エネルギー効率を上げていきたい。そこでウチの一級設計士が真面目に取り組んでくれている。自然素材の良さを活かしながら、気密性を上げて、より快適な状態をつくりだせるように。

 透過性の高さには良い点もたくさんある。今回の新型コロナウイルス問題で「密閉は良くない」と言われるが、「密閉」空間にはならない。それ以上にありがたいのは、石油系や有害化学物質を使った一般的な高気密空間をつくってはいないので、「24時間換気」をしなくても「シックハウス」にならない点だ。

  よく家の性能表示で断熱性能を示す値に「UA値」、気密性能を示す値に「C値」がある。しかし残念なことに、UA値に「換気による熱損失」は計算上考慮されない。 「UA値」が基準になる前は「Q値」というのが基準で、そこでは熱損失が考慮されていた。

  熱を確保するのにビニールやベニヤ板で張り詰めてしまうのは簡単だし、それで「C値」を高めることはできる。 しかし天然住宅では、どちらも使わないことがポリシーになっている。使えば匂いがするからすぐに気づくのだ。

 しかし燻煙乾燥の木の匂いが嫌だという人もいる。かつての「燻煙乾燥」と比べたら、今はほとんど匂わないのだが、それでも嫌な人はいる。それなら燻煙していない木材を用意することもできる。この燻煙の効果にも「抗ウイルス」がある。「ステイホーム」しているだけでウイルスを不活化できるなんて、とてもいいと思わないか。

木材の「ウイルス不活化」③ ~木材の「リグニン」の抗ウイルス効果~

 そもそも木材というのは、例えて言えば「鉄筋コンクリート」と同じ構造になっている。鉄筋に当たるのが「セルロース」で、コンクリートに当たるのが「リグニン」だ。このリグニンがセルロースを取り囲むことで強さを維持している。

 しかもありがたいのは、この「リグニン」自体にも「抗ウイルス効果」があるのだ。その薬理効果を応用しようという研究が続けられている。しかしリグニンこそものすごく多様で、樹種によって内容が異なるのだ。「~~の木」ならこんな効果がという形で違ってしまうのだ。

 私たちの生活をウイルスが脅かしているように、植物に対するウイルスもいる。木は動けないので、その分たくさんの方法でウイルスを不活化する。ウイルスを不活化させるだけではない。ウイルスの結合する「スパイク蛋白質」を壊したり、本体のRNAをDNAに逆転写することを邪魔したり、多種多様な抵抗力を持つ。

 しかしだからと言って、ウイルスは必ずしも敵ではない。ウイルスの感染により進化した例は動物の方がわかりやすい。働きハチは、外敵が来た時に「死を覚悟して攻撃行動に出る」ものと、逃げ出すハチがいるそうだ。この攻撃するのは、脳内がウイルスに感染しているかどうかによるそうだ。ちなみにこのウイルスは「カクゴ(覚悟)ウイルス」と命名されている。

 植物ももちろん「干ばつ」に強くなったり、「高温」に強くなったりする力をウイルスから得ている。ウイルスは二酸化炭素の蓄積に至るまで様々な役割があるそうだ。ヒトも母体は血液型の異なる胎児であっても異物とみなさずに育てるが、これは「胎盤」の機能のおかげだ。その胎盤の機能はウイルスからのプレゼントと考えられている。しかしこれらはまだ氷山の一角にすぎない。

 私たちの存在は他の様々なウイルスや生命体と共に生きている。それらを殺すのではなく共存して生きていくための知恵が必要なのだと思う。そのときにも自然の素材の力を借りることができないだろうか。プラスチックではなく木材だったり、抗生物質でなく腸内で作り出される免疫機能だったり。

 何よりヒトは自然の素材と、生命体としてずっと長く共存してきたのだ。そこに未来への扉を開く鍵があるのだと思う。リグニンの研究は、まだ始まったばかりだ。

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2020年5月発行 田中優 天然住宅コラムより