2021年4月に有料メルマガに書いたものです。現在の水俣病のはじまり。
世界に水俣病を届けるのか(上)
~そして人々は会社従業員のように被害を黙殺するのか~
日本で起きた「水俣病」は世界の公害問題の始まりとなった。
いつ頃から始まっていたのかを調べると、以下のように書いてある。
「家庭医学大全科」の解説によれば、
「水俣病」は、熊本県水俣湾周辺で1956(昭和31)年5月に、新潟県阿賀野川流域で1965(昭和40)年5月に発見されたもので、四肢末端の感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、中枢性聴力障害を主要な症状とする中枢神経系の疾患です
とあり、
1968(昭和43)年に「それぞれチッソ株式会社、昭和電工株式会社の工場から排出されたメチル水銀化合物が魚介類に蓄積し、それを経口摂取することによって起こった中毒性の中枢神経系疾患である」という厚生省(当時)の見解が出されました
とある。
なんと私自身もまだ生まれる前の時代に発生していた公害事件なのだ。
当時は奇病とも伝染病とも疑われ、現実に消毒処理が行われたことから患者差別につながっていった。ところがその原因物質がはっきりせず、上に述べたように1968(昭和43)年に
「メチル水銀化合物が魚介類に蓄積し、
それを経口摂取することによって起こった中毒性の中枢神経系疾患である」
という厚生省(当時)の見解が出されるまで不明の状態だった。実際に世界にも日本にも今でもよくわからない「奇病」も現実に存在し、しかも当時はまだ妖怪などの魑魅魍魎が現実に存在するものとの認識も一般的だった。
その代わりに地域の自然は高度成長期が始まるまでひろく残され、そこでは狩猟採集して日々の食料にすることも普通に行われていた。「先祖代々」とまで言わなくとも、戦前からずっと食べてきた狩猟採集したものが、急に有害有毒なものになっているとは思わなかったのだ。
原因はアセトアルデヒド(飲んだアルコールが肝臓に分解されて吐き気や頭痛の原因となるだけだが、工業的には重要な材料で酢酸、無水酢酸などの有機工業製品原料、プラスチック、合成ゴム、染料などの中間原料として広く用いられる)の製造するのに触媒として使われた水銀が「メチル水銀」となっていたのだ(図2)。https://www.env.go.jp/chemi/tmms/husigi/hg_husigi_18.pdf
それ以前の触媒反応に代えて、「アセチレン水和反応」にした。するとその場合、触媒の「二価水銀」の一部が還元されて「金属水銀」に変わるので、それを「二価水銀」に戻すための酸化剤が必要になる。一九三三年操業開始以来、チッソは酸化剤として「二酸化マンガン」を使っていたが、一九五一年「濃硝酸」を用いて再酸化する方法に変えた結果、反応液の中から「二酸化マンガン」が消え、「イレルメチル水銀」の生成速度が約一〇倍に増えた。そのため排出量の増加につながったようだ。
しかし「再酸化」のに濃硝酸を用いるのは一般的で、「二酸化マンガン」を使う方がチッソ社独自の方法だった。しかし他社では「メチル水銀」を生み出さなかった。この理由は恐らく「反応液中の塩素イオン濃度が高かったから」と考えられ、他社は山中で淡水が得られたが、水俣工場が海岸に立地し、しかも用水管理が不十分であったためと推定されている。
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その被害者を支援する「水俣病被害者・支援連絡会」が四月、東京電力福島第一原発の処理水を海に流す政府方針に対し、反対声明を発表した。水銀を含む工場排水の海や川への放出が水俣病の原因になったことを踏まえ、「同じ過ちを繰り返そうとしている」と抗議したのだ。
声明では、政府が放射性物質のトリチウムを含む水を希釈して海洋放出する方針を示していることについて、
「希釈しても(トリチウムの)総量が減るわけではない。(食物連鎖によって濃縮する)生物濃縮でメチル水銀が人体に影響を及ぼした事実を私たちは水俣病で経験した。人体への影響が明確になっていない段階での放出は許されない」
と訴えた。
この声明は正鵠を射ているのではないか。
(水俣病患者9団体、処理水放出に反対 「同じ過ち繰り返す」声明 毎日新聞)
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この水俣病を起こした物質は何だったか思い出してほしい。「金属水銀、無機水銀、有機水銀」とある中で、水俣病を引き起こしたのは「有機水銀」たる「メチル水銀」だった。しかも作ろうとして作ったのではなく、「金属水銀」を助触媒として使っていたのが、再酸化の過程で「マンガン」を「濃硝酸」を使うことに変え、淡水ではなく海水を用いたためにメチル水銀化しやすくなったものと考えられている。
わざとでなくても「メチル水銀化」により、あれほど深刻な水俣病を生み出してしまったのだ。同様な化学反応を汚染水に含まれる飲んでも安全と言われる「トリチウム」排出により、世界中の海に生み出しはしないかというのが私の懸念だ。
実際の懸念する科学者もいるしデータもある。この「メチル水銀(有機水銀)」と「金属水銀や無機水銀」との大きな違いこそが水俣病の原因が特定されずに長期化し、混乱を招いた原因だった。原因物質がわからなかったことも手伝って、メチル水銀放出が長期的に膨大に流されてしまった。
しかも流出したメチル水銀は水域中でいったん超希薄濃度にまで薄められ、水中諸生物間の食物連鎖を経由することにより魚介類の体内で高度に(数万倍)再濃縮され、その有毒化した魚介類を繰り返し大量に摂取して発症した。その汚染が濃縮した魚介類は、高濃度のメチル水銀を蓄積しながら、外見上は何の異常も示さなかった。そのことが、食べようとする人々に安心感を与えてしまっていた。もしメチル水銀が魚介類に毒性を示して死んでいたならば、水俣病は起こらなかっただろう。メチル水銀の化学的特性として生体に吸収されやすく、生体内で分解されにくいということが、高度の濃縮蓄積を起こした理由となってしまった。
「水俣病」の主な症状は、四肢末端を中心とする知覚障害、小脳性運動失調、求心性視野狭窄、中枢性聴力障害および構音障害(言葉の発音の障害)だ。また、母親が妊娠中に摂取したメチル水銀が胎盤を経由して胎児に移行し、発症したのが「胎児性水俣病」だ。脳性小児麻痺に似た症状を来す胎児性の水俣病も、50名以上が確認されている。その症状は、「胎児、小児、成人」の順に深刻で、脳の発育過程の早期にメチル水銀蓄積を来すほど広範な障害を起こしている。
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さてこの「金属水銀や無機水銀」のところに「トリチウム」を代入すると、有機水銀たる「メチル水銀」は何になるだろうか。
「トリチウム」はただの三重水素で水素の原子核に存在する陽子一個の代わりに陽子一個と中性子二個の周囲を電子(陽子の数と同じ)一個が回転している形だ。これは電気的に中性な余分な中性子を二つ持っているだけで、形としては「水素」であることに変わりはない。どちらも水と同様の挙動を示すのだ。
それが
・ガス状のままの時を「HT」
・酸素と反応して「水」の形になった時を「HTO」
・さらに他の有機物と反応した時のものを「OBT(有機結合型トリチウム)」
と呼ぶ。
実は元は同じ「トリチウム」だが、性質が大きく変わってしまうのだ(図3)。
中でも大きいのが生物の濃縮の程度だ。
「HTO」は生物組織と一体化していないので周囲の水を全くの真水にすると、「HTO」の濃度は周囲の真水の濃度と平衡するまで低減する。周囲の水の濃度まで下がるのだ(図4,5)。
それに対し、「OBT(有機結合型トリチウム)」の挙動は大きく異なる。周囲の濃度に影響されることなく、高濃度のまま維持されるのだ。これは木材の中にいる水分の、「自由水(何とも結合されていない水)」と「結合水(中の有機体と結合してしまっている水)」の関係によく似ている。木材を乾燥させる時に簡単に抜ける水分は「自由水」であり、なかなか抜けないのが「結合水」なのだ。
その結合水のようになった「OBT(有機結合型トリチウム)」は、たとえ汚染されていない真水に晒されても、なかなか抜けていかないのだ(図6)。
もちろんトリチウムの半減期は12.3年で半分に減る。残りの半分は12.3年ではなく12.3年でまたその半分に減ると計算する。
それが半減期だが、また別の半減期もある。「生物学的半減期(「体内半減期」ともいう)」だ。物理的に半減するのと違って、体内に取り込まれた放射性物質が体内から排出されて半分になるための期間だ。
ここは蓄積された部位にもよるが、一般的に言われるような約10日ではなく、数十日から数年となる。「OBT(有機結合型トリチウム)」は体内に長く留まるのだ。
加えてもう一つ厄介な加害がある。
・トリチウムはベータ崩壊し、電子を出すことで「中性子」が「陽子」になる。
・すると「水素」だったものが「ヘリウム」に変わるのだ。
「水素」は体内の多くの元素をつなぐ接着効果を持っているが、「ヘリウム」にはこの効果はない。すると最小単位では遺伝子の「塩基」同士をつなぐ力も失わせる。そもそも「水素」として遺伝子を組成していたものが、別な物質に変わってしまうのだ。それは遺伝子としての組成を失わせるだけでなく、何を起こすのか見当もつかない。
それなのにトリチウムの生体濃縮がすでにネットでは「食物連鎖で高度に生物濃縮されるというデマがあるそうだ」と書かれている。
デマという方がデマなのだ。しかしなぜこれほど堂々と書かれているのか。原発推進派はもとより政府や御用学者もまたそう主張しているためだ。多勢に無勢なので、このような誤りが堂々と主張されるのだ。これは福島原発事故直後の政府の発したデマに似ている。
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これは水俣病の危険性に似ていないだろうか。企業城下町だった水俣では、「株チッソ」の従業員たちもまた会社が傾くことを恐れて「風評被害」を主張していた。今回の汚染水の放出ではその加害者は日本全体になる。加害企業の従業員のように、皆で現実の加害を引き起こしながら「風評」としてその加害を忘れようとするのだろうか。
そもそも「OBT(有機結合型トリチウム)」のことは原発推進する国の機関である「国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構」の出している「ATOMICA」にすでに載っている。
これをもデマというのだろうか。 日本はわかっていながら有害放射能を無害と主張して放出する国となるのだろうか。
世界ではトリチウムの規制レベルがある。以下の(図7)の通りだ。
ところが日本はこの規制を持たず、「排水中の濃度を6万ベクレル/リットル」としているのみだ。他国と比べていかに規制していないか明らかだろう。
これが今政府が放出しようとしているトリチウムの現実だ。頬かむりして無視することなどできない。世界の未来がかかっているのだ。
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2021.4.30に発行しました有料・活動支援版メルマガ「田中優の未来レポート」を文章を中心に転載しました。すべての図・グラフをご希望の方は、バックナンバーよりご購入をお願いいたします。↓
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