生命の進化論から考えるガン予防  

坂本龍一さんを亡くしてから、寿命のこと、健康のことなど改めて考えるようになった。別によく連絡とり合うほどの間柄ではなかったが、それでも迷ったりするとメールしていた。

2019年 NONUKESにて

坂本さんなら大体何でも知っているし、適切な答えを持っていた。メールできなくなったことがとても寂しい。あれほど博学で学ぶことに貪欲だった坂本さんに、もう二度と聞けないと思うと、なんだか半身を奪われたような気持ちになるのだ。ぼくですらそうなのだから、もっと近くにいた人たちは大きな痛みを感じているんじゃないか。もしかしたら立ち直るのも難しいかもしれないと思う。それほどの衝撃だったんだ。坂本さんと二度と連絡できなくなることは。だから坂本さんの命を奪ったがんについても、考えずにはいられなくなった。  

どうしたらがんにならずに生きなからえることができるのだろう。知識や知恵だけでも残しておくことはできないのだろうか。そんなことを考えながら、前回(「生命は奇跡的」)述べたような生物進化を思っていた。  

そんな中でアマゾンプライムにあった動画、「すばらしき キノコの世界」を観た。

動画そのものが面白かったが、それ以上に興味をひかれたのが、動画に出てくるスタメッツのお母さんがガンになり、致命的なガンをきのこの力で克服してしまった話だ。

とにかく面白かった。進化の中で捉えてみると、この「菌類」というのはものすごく古くから生存している種だ。動物と植物の素になったのもきのこをふくむ菌類らしい。

 

この映画はポール・スタメッツという人の成育歴に寄り添うように作られている。

ポール・スタメッツ氏は

「1955年生まれ。アメリカの菌類学者。菌類に関して、生活環境から医薬への用途や生産まで、学界および産業界における第一人者と言われている。米国科学振興協会の発明大使賞、北米菌類学会の全米菌類学者賞(2014年)、米国菌学会(MSA)からゴードン&ティナ・ワッソン賞(2015年)など数多くの賞を受賞」

と紹介されているが、学術的な紹介はあまりない。ひたすら「きのこ」を愛し、簡単に言えばどこまでも「きのこオタク」として研究してきた人だ。別に学術のためでもなく権威でも金のためでもなく生きてきた人なのだ。どもりがひどくて人と目を合わせられないスタメッツが、きのこの幻覚作用から目覚めてから話しかけ、以来二度とどもらなくなったという。

スタメッツは独自な感性と独特な思考方法から、「きのこ」の可能性を見出した。  

その大発見の一つがガンに効くという事実だった。日本でも売られている「カワラタケ」というきのこがある。

カワラタケ

これががんの抑制や予防に効果があるというのだ。漢方薬のサイトを見ると眉につばをつけたくなるような話がたくさんある。しかしかなり信頼性の高いサイトに紹介されている事例もある。どのきのこが一番効果があるとか言うことはできないが、確かに効果のあった事例のあることも確かだろう。

考えてみれば進化の最初の段階を考えてみると確かに思える。動物や植物だのと分けられる前、それはおそらく菌類から進化したはずだ。しかし複雑化が進む進化の中で、しかも陸上に生命が上がる前だから、海の中しか生存できなかった時代に、病はウイルスが持ち込み、体内に増殖したのだろう。しかし限りなく増殖されたら生命は生き残れない。そのときウイルスが持ち込む疾病に打ち勝つのに、可能性があるとしたら菌類しかなかったと思う。同じ菌類でも効果は大きく異なるので、そのうちのカワラタケのような種が、白色脂肪細胞に対する強力な脂肪蓄積阻害活性を示すことでガン細胞の無限の増殖を抑制したのではないか。  

私たちが何かの繁殖の抑制効果を考えるとしたら、それ以前から生きていたであろう生物の対策を想像してみるのが良いように思う。相手が最小単位の生物であるウイルスだとしたら、それが活性化しにくい物質などを考えてみることになる。今や私たちの死因の第一位で人口の半数近くが最終的に命を落とすガンへの対策は、どうしても考えないわけにはいかない。しかし「外科治療、放射線治療、化学治療」だけでは犯罪者を罰するだけで、根本的に治癒に向かわせることにはならないのではないか。  

ところが菌類は生物に栄養を届けながら共生する種が多い。菌類が腐敗物から栄養を取り出し、植物や動物に栄養を届ける。この菌類の効果が大気から二酸化炭素を吸収して、ミネラルと合成して有用な物質として大気から取り除いている。生命が誕生できたのは、菌類が存在していたおかげだ。  

進化から考えると、人の体内にある免疫機能と合わせて、過去からずっと生き抜いてきた菌類の力を利用するのがいい。しかしそうした外部の力を頼る前に、外部からの人体に良くない物質を避けておくことが必要だ。農薬まみれの食べ物を摂取しながら疾病を心配するのは滑稽だ。

安全な食や住まい、良好な自然環境に包まれながら、ストレスの少ない暮らしを求めたい。地方に暮らすだけで良好な環境が得られるわけではない。地方の方が農薬などの拡散の可能性は高いし、都会と比べて無神経な人も多い。

そうした中で頼りになるのはコミュニティーの力だろう。「給食の割烹着の柔軟剤が臭すぎるんじゃないかしら」「給食を有機食材に」というような会話が、子どもたちの生活を守ることにつながる。

 

さらに今私が心配しているミツバチの絶滅を促しているネオニコチノイド農薬の影響にも、ある種のきのこが大きく改善する可能性も見つかっている。菌類は生命の揺り籠のようだ。

有機農法の世界で「炭素循環農法」や「菌ちゃん農法」が有名になりつつあるが、その利用する「菌ちゃん」もまた菌類なのだ。菌類こそが私たちの生命の始まりにあり、進み過ぎた科学に対する私たちの防衛になるのかもしれない。

少なくとも私にとっては、菌類の起こす奇跡から目が離せない。その力を知ることが未来を開くと思うからだ。生命の始まりに菌類の力があったように、私たちの再生にもその力が関わると思うのだ。そんな話を坂本さんとメールで話し合いたかった。だから今私と関わる人たちには長く生きてほしい。学ぶことは楽しいが、それ以上に楽しいのは互いに話し合えることだ。ヒトの生命の起源をもっと深く学んでみたい。

(2023年7月川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています)